放課後、教室にはもう私しかいなくてグラウンドにはサッカー部がパス練、野球部が走り込み、他の部活もエトセトラ、エトセトラ。 「何してんの」 「うわあっ!」 椅子はガッターンと大きな音を立てて床に転がる。気配もなく真後ろから声を掛けてきたのはレッド。 丁度窓側の席だった私は今日返却されたテストを紙飛行機にして、グラウンドへ向かって構えていたのだ。 紙飛行機を掴んでいた手から力が抜けポロリと3階から地上へと落ちていく答案用紙。 「あ゛ぁぁあ!」 や っ て し ま っ た ! まだあれには私の名前が書いてある。 ということはだ。拾った人がそれが何かの紙であることに気付いて広げたりしたら…!! 最悪の事態が頭の中で思い描かれる。 その瞬間駆け出す。 「レッドの馬鹿、今度何か奢ってよねっ!」 ちゃんとレッドに聞こえたかわからないけれど絶対に奢らせると心の中で誓う。 階段を転がるような勢いで1階まで駆け下り、上履きのまま外に出て探す。 ない、ナイ、無い! 「なんで無いの!?」 もう誰かに拾われたのか。否、もしかして風に飛ばされたのかもしれない。 もう一度この近辺を探してみよう。 「ねえ」 「ひいっ!」 またもやいつの間にか背後に立たれた。 気配消して近付くのが今のブームなんですか。 「ま、マツバ先輩驚かさないで下さいよ」 「あはは、ごめんね」 女の子達を射止める悩殺スマイルを浮かべるマツバ先輩。その手に持ってるのはもしかして… 「ああこれ?」 私の視線が自分の手に持っているのものに注がれているのに気付いたのかヒラヒラとそれを揺らして見せた。 「そ、それ私のなんです」 「うん、知ってる」 「ということは…」 「ごめんね、見ちゃった」 爽やかに笑うマツバ先輩がここまで憎たらしいと思ったことがあっただろうか。 「どうしたら点数が一桁に「ああああ!言わない下さいいい」 ばっちり点数見られてるし…。 「もしよかったら教えようか?」 「…えー」 「不満?」 「だってマツバ先輩の得意教科古典じゃないですか。それだったら数学得意なデンジ先輩かグリーンに教えてもらうんで…」 マツバ先輩の手に握られている8点の数学のテストに己の手を伸ばすが、あと少しのところで逃げられる。 「…何するんですか」 マツバ先輩は私が届かないように答案用紙をひょいと上にあげた。 「確かに古典は得意だけど、数学が苦手なわけでもないんだよ」 「そうですか。それじゃあ返して下さい」 「んー、仕方ないなあ」 やっと数分ぶりに手元に戻ってきたそれに安堵する。 「じゃあ交換条件として次のテストでは90点以上採ってね」 もう受け取っちゃってるんで交換条件じゃないですよマツバ先輩! 「大丈夫、僕が教えてあげるから」 その笑顔がなんだかとっても不安なんですけど…。 ← |