short | ナノ
 


「今日も1日お疲れ様です」

「こちらこそお疲れ様でした」


本日はクダリさんの方が早くお仕事が終わり先に帰宅なさったようで、ノボリさんと私だけで終電のカナワタウン行きトレインに乗って帰ることになりました。

終電であることと、週末以外はカナワタウン行きを利用する方が少ないこととが相まってか、プラットホームは閑散としていて寒さも厳しくなってきたこの季節。
なんだか閑散としたホームは、余計に寒さを感じます。


「寒いのですか?」


静かな駅のホームにノボリさんの落ち着いた声が響く。


「はい」


私が返事をすると「そうですか」と言って何やら片方の手袋を外し始めたノボリさん。
何をやっているのかと見ていれば、いつもの白い手袋を取り去った綺麗な、けれど男性らしさを感じさせる大きな手をこちらに差し出しました。


「へ?」

「ほら、寒いのでしょう」


そう言ってこちらに手を差し出したまま、きょとんとするノボリさんはなかなかレアですね。でも意図が全く読めません。


「わたくしもこのまま状態では寒いのですが」


取り敢えず手を差し出されたのだから何か乗せてみなければ、と自分の掌をノボリさんの掌を重ねてみる。
あったかい…。


「こんなに冷えてしまって…もっと早くに気づくべきでしたね、申し訳ありません」

「いえ、今朝はさほど寒くなったので手袋を持参しなかった私が悪いの気になさらないで下さい」

じわりじわりとノボリさん体温が掌を通じて伝わる。
このままでは私の冷たさからノボリさんの手まで冷たくなってしまうと思い、手を退こうとした時。


「ですが、」

乗せていただけの指と指が絡まり、

「こうしていれば暖かいでしょう」

ノボリさんの眼差しに射抜かれる。


やっとホームへ入ってきたカワナタウン行きトレインが冷たい風を連れてきましたが、もう寒さが気になることはありませんでした。