short | ナノ
 



「今日もいい天気ですね」


一番道路の端の芝生の上に腰を下ろしている見覚えのある女の人がいて俺は慌てて声を掛けたけど、もっと気の利いた言葉や自然な言葉も有ったはずなのに在り来たりな挨拶しか思い浮かばず、しまったと思った。


「あら、トウヤ君。こんにちは」


だけど姉さんはさして気にした様子もなく、いつもの落ち着いた声のトーンで挨拶を返してくれた。風がお姉さんのミルクチョコレート色の髪をさらさらと凪がす。この人はアララギ研究所でサポートをしているらしい。まだ俺達が幼かった頃からいて、俺達のお姉さん的存在だった。始めにお姉さんをお姉さんと呼んだのはベルだったと思う。それから俺達はお姉さんと呼び始めた。だから血縁関係にあるわけじゃない。あと本当の名前は知らない。アララギ博士も研究所も人達も姉さんと呼んでるから。でもアララギ博士の方が明らかに歳、上っぽいけど……。


「カノコタウンは晴天が続いているけれど、そうでないところも多いようね」


野生のヨーテリーが草むらから飛び出してきて、俺は咄嗟に身構えたけど姉さんの方へ一直線。そして姉さんの足下に擦り寄った。ヨーテリーを抱き上げて膝の上に乗せて沢山撫でている姉さんはポケモンに好かれやすいみたいで会う度ポケモンを連れていた。


「旅をしてトウヤ君は何を得た?」

「そうだな」


姉さんの問いに俺は旅の思い出を思い返す。
みんなで踏み出した一番道路、ジムリーダーの皆さん、大切なパートナー達との出会い、プラズマ団とのバトル、Nの事……。
楽しい思い出ばっかりじゃない、苦しい事や、悲しい事、沢山あった。その中で俺が手に入れたもの。


「絆、です」


ベルやチェレンがいたからこそここまでやってこれたし、強くなれた。パートナーのポケモン達ともお互いを信頼できるようになれた。Nの城の時もみんなが力を貸してくれた。Nはあれ以来姿を消したけど、俺はNを友達だと思ってる。離れた今でも絆で繋がってると思ってる。


「いい答えだね」


姉さんは懐かしむように目を細め水道を眺めていたけど、目の前のこの水面ではなくどこか遠くを見ているようだった。
ヨーテリーを撫でる手はいつの間にか止まっていたようで甘えた声でヨーテリーがもっと撫でて、と鳴いた。