short | ナノ
 



雨続きだった天気はようやく青空を見せた。雲ひとつ無い晴天。厚い雲に覆われていた昨日までが嘘みたいだ。
空から届けられる太陽の光が青々としていた葉にぶつかり、きらきらと輝いた。
サンヨウシティのジム兼レストランの窓から見える景色を眺めている間に運ばれてきていた紅茶を喉へ流し込む。いつ来ても女性客が多い店内はジムリーダーの三つ子が格好良いと言う黄色い声がひしめき合っている。この店ではいつもの事だ。
壁に掛けられている時計に目をやれば約束の時間を少し過ぎるくらいで、そろそろ待ち人も来るかなと思いティーカップをソーサーに戻す。
忙しなく働くデントさんがテーブルの横を通り過ぎた。ジムリーダーなのにレストランまで経営するなんてサンヨウジムは働き者のジムだな、とぼんやりと考える私はケーキでも追加注文するかメニューに視線を落とした。


「ごめん、待たせたよね」


そこで私の待ち人登場。


「トウヤ」

「本当にごめんね、リーグに挑戦しに行ってたら予想外に時間かかっちゃって」


両手を合わせて申し訳なさそうに謝るトウヤに平気だと伝え、席に座るよう勧める。


「どうだった、リーグ」

「勿論勝てたよ。あ、サイコソーダ下さい」

「私もガトーショコラ、お願いします」


トウヤが片手を軽く挙げて近くを通ったウェイターのミキヤさんに注文したので、ついでにと私も追加注文するとミキヤさんは注文を繰り返し確認した後丁寧に頭を下げると厨房に戻っていった。


「トウヤ強いもんね」

「そんなことないよ、バトルサブウェイの人達の方がよっぽど強いし」


私とトウヤはバトルサブウェイで知り合った。それ以来、マルチトレインではトウヤとタッグを組んでいる。今日はスーパーマルチトレインでの戦略を練るためにここで待ち合わせたのだ。こんなに良い天気なのに屋内でバトルの作戦を練る、だなんて大概私もポケモンバトルの魅力に取り付かれた人の一人なんだろうなと苦笑をうかべる。


お互いのポケモンの相性を補うようにして技の構成、努力値の振り分け、タイプを話し合って決めているとコーンさんがガトーショコラとサイコソーダを運んできた。


「今日はお二人とも、デートですか?」


デートかと聞かれればノーだ。これは作戦会議なのだから。私が焦ったように否定するとトウヤが一瞬悲しそうな顔をしたので私もそれから口を噤む。なんて話しかけて良いのかわからない。コーンさんはそうですか、とだけ言って仕事に戻っていった。テーブルを離れる際のにやりとした嫌な笑い方を残して去ったコーンさんが恨めしい。
気まずい空気が流れる。


「と、トウヤどうかした?」


この空気をどうにかしたくて取り合えず話しかけてみる。


「デートだと思われたのがそんなに嫌なら今日はもう解散しようか」


何も言葉を返さないトウヤに痺れを切らした私は席を立ちお勘定をしようと伝票を手に取るとトウヤが私の手首を捕まえた。視線をトウヤに向けると、トウヤは俯いたまま。トウヤは一体どうしたいのか私にはさっぱりわからず眉間に皺を寄せる。もう一度名前を呼ぶとトウヤは突然顔を上げた。


「なんで俺が今日誘ったと思う?」


突然なんだと思いながらも素直に答える。


「スーパーマルチで勝ちたかったから」

「それは俺の建前」


は、と小さく漏れる私の声。


「本当は違う」

「それってどういう、」


思わず口を閉じ、言葉を紡ぐのを止めた。あまりにもトウヤが真剣な表情をしていたから。



「好きだ。好きなやつとデートしたいって思うことは駄目なこと?」