short | ナノ
 



クチバシティで只今絶賛一人暮らし中の俺は今日もベンチに腰掛け、ぼんやりと海を眺めていた。
俺の足元で丸くなっていたウインディが耳をぱたぱたと揺らしたのを見て癒されていると、散歩に出かけていたゲンガーが人を連れて戻ってきた。


「お、レッド久しぶり。下山してるなんて珍しいな」


肩にピカチュウを乗せている赤色が似合う友人がそこにはいた。


「……会いに来た」

「誰に?」

「………」

「‥え、なにこの沈黙?」


レッドは何も言わず穴が開くんじゃないかっていうくらいの勢いで俺を見てきた。
見つめるっつった方正しい気がしたが、それはそれでなんか…ねえ…。


「…あー、じゃあその人に会いに下りてきたんだから、さっさと行った方が良いんじゃないか?」


この無言の空気に堪えられなくなって、そう切り出してみたけど俺を置いて行っていいと言ってるみたいで何だか癪だった。
別にレッドと誰が会っても俺には関係ねぇのに。
くそ、俺らしくもない。


「…もう会えた」

「おー、そっか。良かったな」


言葉ではこう言ったけど胸が痛む。何なんだよ、こんなの…俺がレッドのこと好きみてえじゃねぇか。言っとくけど俺はノンケだ。そっちの気はない…はず…。
うん、と短い返事を返したレッドにこの気持ちを誤魔化すかのように次の言葉を投げかけた。


「その人元気そうだったか?」


すると首をこてんと横に倒してよくわからないという風に俺を見るこいつを見て俺も頭にもハテナが浮かぶ。
今の質問で疑問符を浮かべる要素がどこにあったんだ。


「何言ってるの」


それはこっちが言いたい台詞だ。眉間に皺がよるのが自分でもわかった。レッドが会話をしてて言葉が足らないのは日常茶飯事で俺もグリーンも大分慣れているけど、この脈絡の無さ具合は初めてかもしれない。何を言いたいのか全く予想出来ない。


「………元気?」

「え、あ、おう」

「なら元気」

「……は?」


意味がわからん。
何故そこで俺が出てくる。余計混乱してきた。誰か俺になんでもなおしくれ。あ、鞄に入ってたかも。


「俺が会いに来た人目の前にいる」

「へ、あ…お、俺?」

「うん」


さらっと言ってのけたレッドに硬直。まさに後頭部を鈍器で殴られるくらいの衝撃。いや、後頭部鈍器で殴られたら下手したら死ぬけどさ。それくらいの衝撃、驚愕なわけで。それと同時に顔が熱くなった。きっと今俺の顔は真っ赤だろう。なに男に言われて恥ずかしがってんだよ、俺。ときめいてんだよ、俺!ノンケじゃなかったのか!?
とりあえずこんな顔レッドには見せたくなくて膝に顔を埋めて呟いた。


「……わざわざ来てくれて、ありがと」