short | ナノ
 



「知ってる?」


突然私に話し始めたダイゴ。知っているも何も脈絡もなく言われても一体なんのことだかわからない。


「今日は猫の日なんだよ」


告げられた言葉にも私にはよく理解できなかった。
いつから猫の日になったんだ。
私が訝しんでいるのに気付いたのか慌てたように今日の日付を口にした。


「ほらっ、今日って2月22日でしょ」

「ああ。にゃん、にゃん、にゃん、で猫の日か…それがどうかした?」


私が尋ねると待っていましたと言わんばかりにどこから出したのかわからないが、ある物を取り出した。


「ダイゴ…こんな物一体どこで手に入れたの」


私の口から紡がれた言葉に呆れの色が混じっているのに気付かないのか気付かないフリをしているのか定かではないが、ダイゴは嬉しそうに手に握っている物を頭に着けて嬉しそうにしている。


「今朝ミクリに貰ったんだ。どうかな、似合う?」


ミクリさん、何故貴方がこんな物持ってるんだ。持っていたとしてもダイゴだけには与えないでほしい、ろくなことがないから…。
未だ嬉しそうにしているダイゴの頭にはちょこんと猫耳が生えている。

皆様がご推測の通り、ミクリさんはダイゴに猫耳カチューシャを与えたのだ。


「はいはい、似合いますよ」


デボンコーポレーションの次期社長が猫耳付けて喜んでいる姿なんてなかなか見れるものではないだろう。

ダイゴは私の適当な応えに納得いかなかったのか顎に手を当てて唸った。
なにやってるんだこの人は、と思いながらその様子を観察していると、案外あっさり解決したらしく考え始めてから十分も経たないうちに満足そうに頷いていた。かと思うと頭の猫耳を取り素早い動きで私の頭に何かを装着させた。

まぁ予想はつくけど…。


「うん、やっぱり僕より君の方が似合う」


ダイゴの視線は私の頭上へと注がれていて、おずおずと自分の頭を触ってみれば案の定フサフサとした三角の形が二つ鎮座していた。


「ちょっと何してくれてんの、取るからね」

「駄目だよっ!」


何が駄目なんだと目で訴えれば何やら真摯な眼差しで私の両肩を掴む。


「もし取ったら僕とベッドの上でにゃんにゃんだからね」

……本当に何を言ってるんだこいつは。
あからさまに溜め息を吐いてやっても蔑んだ目で見やってもダイゴは気にする様子はなく、寧ろテンションは上がっていくばかり。
可愛いよ、写真取らなくちゃ、だなんて言って慌ただしく駆け回っている姿を見て思った。

これは私の手に負えない。
がくりと肩を落とし、ここにはいないミクリさんを少しだけ恨んだ。