今日はみんなみーんな黒色。 人がいっぱい。浮かない顔して、泣いてる人もいる。 ぼく、嫌い。 こんなどんよりした空気。 みんなの顔とは反対に空は青空。抜けるような、青。 あの子が好きだったこの空。 今日はあの子のお葬式。 ぼくとあの子は両想い。 一緒に笑ったり、泣いたり、怒ったり。些細なことで喧嘩もしたけど直ぐ仲直りした。キスもしたし躯も重ねたことだってある。愛を囁きあって確かめたあの日。今でも鮮明に思い出せる記憶の数々。 でもあの子がこの世から呆気なくいなくなっちゃった。 あの子との大切な日々を思い出しては泣いてたあの頃のぼく。 泣いて、泣いて、泣いて。 涙が止まらなくって、周りに慰められても唯辛いだけで。 でも今はいい思い出だって言って笑える。 それがあの子の願いだったから。 あの子の願いはぼくの願い。 生気がないぼくを立ち直らせたのは、もういないあの子からの最初で最後の手紙。 今朝家を出る時も読んだあの手紙。 あの時のぼくは仕事にも身が入らなかった。この時ばからはノボリも何も言わなかった。ただぼくを可哀想なものを見るような目で見てた。 ぼくは家に帰ってからも食事を食べることはなくて、あの子がいなくなった世界に絶望して泣くか寝るの日々。 ある日ノボリがぼくの部屋へ飛び込んできて一通の手紙を渡した。表には何も書いていなかったけど裏にはしっかりとした字であの子の名前が書いてある。急いで封を切り中身を取り出すと薄っぺらい一枚の紙が出てきて、広げてみると確かにあの子の字が紙の上に綴られていた。 クダリへ 手紙を書くのは初めてだね、なんか緊張するな。 あなたがこれを読んでいる今。私は何してるんだろう。今でもクダリの傍に私はいる?…いられるといいな。 例え私があなたの傍にいなくても、私は確かにあなたを想っています。 大好きだよ、クダリ。 愛してる。 面と向かって愛してる、なんて言うのはいつも照れ臭くて話しを逸らしてばっかりだったね。ごめん。 私の誕生日にサプライズをしようとして失敗した時もあったよね。いつも作ろうとしないケーキを一生懸命作ってくれてありがとう。確かにあのケーキは不思議な味がしたけど、クダリが頑張ったくれた気持ちは伝わったよ。すっごくうれしかった。 夏だって二人でアイス買いに行ったのに、寄り道して帰った頃にはどろどろに溶けてて大笑いしたね。もうあんなことにならないようにアイス買ったらすぐに家に帰ろう。 バチュルの孵化、私が手伝ったの覚えてる?忘れたとは言わせないんだから。3番道路、ずっとうろついてはお爺さんからたまに卵受け取って。あれは本当にしんどかった。 全部いい思い出。 私の中にちゃんと存在する、きらきらした思い出だよ。クダリと過ごした日々は全部綺麗にきらきら光ってるの。 ……そばにいたいよ、ずっと一緒にいたい。これが私の願いです。 でもね、もうこの願いが叶いそうにない場合。 空を見て、私を思い出して。 真っ青な空は私だから。 それで私との思い出を悲しいものにしないで。これだけは約束してほしい。 クダリには笑っててほしいから。 私の大好きな笑顔でいてほしいから。 これがもう一つの私の願いです。 涙が溢れた。 そっか、これがあの子の願い。 ぼろぼろ涙を零すぼくを見てノボリが何か言おうと口を開いては閉じ、開いては閉じしてた。 でもぼくはもうくよくよしてられない。 笑わなくちゃいけないんだ。 もう大丈夫、ぼくは、大丈夫。 丁寧に手紙を折り畳んでから封筒に戻す。 「ねえノボリ」 「…なんでしょうか」 「この手紙どこにあったの?」 「空の写真集に挟まっていました」 「そっか…あははっ」 あの子は空が好きだった。 いつかのあの子は抜けるような青空を見てぼくに言った。空になりたいって。理由を尋ねたらずっとクダリの一緒にいられるからって答えて微笑んだ。 あの手紙はきちんとしまってある。 あの子が好きだったあの写真集にまた挟んで。 さよなら、いってらっしゃい。 愛してるよ。 ぼくは青空に向かって囁いた。 ← |