short | ナノ
 



喉は痛いし、頭もぼうっとするし、身体も怠いし、咳も出る。
どれもこれも典型的な風邪の症状。

こんな時は薬を飲んで寝るに限る。

布団をすっぽり被って丸くなって目を閉じると、案外すんなりと眠りは私を誘ってくれた。








あれからどれくらい寝ただろうか。
窓からは橙の光が差し込んでいて部屋の隅っこに色を映していた。

もう夕方か。
私が随分と寝てしまっていたことがわかる。夜くらいは何かしら食べた方がいいか。そしたら薬を飲もう。…風邪薬あったかな。

重い身体をベッドから起こしカーディガンを羽織って部屋を出る。
まだ熱は計ってないけど高いんだろうな。
地面を踏みしめているはずの足はあまり感覚がなくて、ふわふわとした道を歩いているかのように覚束ない。
視界も定まらなくて気持ち悪い。

これは本格的にやばいかもしれない。

一旦座ろう。これが落ち着くまで待とう。
そう思ったら足から一気に力が抜け、まるで糸が切れて崩れ落ちたマリオネットのように、半ば倒れるようにして座り込む。

目眩に似た感覚が私を襲う。世界がぐるぐると回っている。

特に泣きたいわけでもないのに、涙が頬を伝って落ちた。



「何してんだよ、馬鹿っ」



突然目の前に現れたのはトウヤで私を見付けるなり駆け寄ってきた。
あれ、なんでトウヤがいるの?
そういえば昨夜鍵を掛けた覚えがない。だから入れたのか、なんて人事のように思ってしまった。



「トウヤ…」

「お前のライブキャスターに何回掛けたと思ってんだよ」


眉間に皺を寄せたトウヤは座り込んでいる私の背中と膝下に腕をまわし軽々と持ち上げた。

トウヤの癖にどこからそんな力出てくるんだ。しかもこれは所謂お姫様抱っこ、というやつで。

普段なら抵抗したり皮肉を言ったりするんだけど、生憎そんな気力も体力も無い私はトウヤに身体を預けることしか出来なかった。


「薬飲んだか」

「飲んでない」

「馬鹿」


迷いもなく真っ直ぐ私の部屋に突き進みベッドの上に下ろした時の動作は普段のトウヤでは考えられないくらい優しいものだった。


「お粥作るから寝てろ」

「トウヤ」

「何」

「おじやがいい」

「…しょうがないな」

本当に仕方ないといったような表情を浮かべるトウヤ。


「トウヤ」

「今度は何」


少しうんざりしたように振り返ったトウヤに面と向かって言うのは気恥ずかしくて、布団を頭まで被ってから意を決して言う。


「……ありがと」


布団の中からだからきっと外側からだとくぐもって聞こえただろう。

いつもより小さい声だったけど彼奴には聞こえたかな。聞き直されたらもう言ってやらないけど。でもこんな事普段から言わないから、恥ずかしい。いっそのこと聞こえなくていい。聞こえないで欲しい。


でも、


「どういたしまして」


トウヤにはちゃんと聞こえていたようで。