ぼくは実行した。 ずっと片思いしてた子をレストランに誘ってあの子が席を立った時、飲み物に薬を盛った。 記憶を忘れさせることが出来る薬なんだって。多少値は張ったと思う。まあぼくは値段どうこうではなく、あの子から記憶が奪えればそれでよかった。 席に戻ってきたあの子は何のためらいもなくそれに口をつける。思わずにやりと嗤ってしまったけどあの子は気付いていなかったみたい。 これであいつを忘れてくれるんだ。 暫くして眠気を訴えると死んだように机に突っ伏した。ウエイターが何事かと聞きに来たけど、仕事疲れで寝ちゃったみたいだからもう帰るという旨を伝えお金を払った。 眠っているあの子を背中に乗せて街中を歩く。その時僕はちゃんと薬が効いてくれることをひたすら祈っていた。 ぼくの家に着いてからベッドの上にそっと乗せてあげた。 あの子がぼくの家にいる。ずっとこうなればいいと思っていた現実が今目の前に起こっている。でもここでぼくははっとした。 これじゃ駄目だ、いきなり人が記憶を失うなんて不自然すぎる。 どうしよう…。 そうだ。階段の一番上から突き落とそう。そうしたら階段から落ちて記憶喪失になったってことに出来る! そうと決まれば行動は早い。またあの子を背負いなおして家の階段の上に昇って、階段の手前で背中から降ろす。 「ごめんね、ちょっと痛いと思うけど我慢して」 そして横たわる背中を突き落とした。 ちょっと音が五月蝿かったけどあの子は転がり落ちていった。 うん。これでいい。 階下に放り出されているあの子を抱き上げ、またベッドの上に戻した。 足や腕は所々赤黒い痕が出来ている。 彼女の顔も何度も打ち付けたのか赤くなっている。 「ごめんね」 でも君がいけないんだよ? あんなやつのモノになるから。 翌日あの子は起きた。 「あなた…は、だれ?」 「ぼくクダリ」 「クダリ、さん…」 あの子はぼくを覚えていなかった。ああ、ぼくの願いは叶ったんだ。 「君の名前教えてもらってもいい?」 「わたしの、名前は…」 痕跡 ← |