「伊佐奈」
――何でお前は泣いているんだ。
「伊佐奈」
――俺はここにいる。
「伊、佐奈」
――そんなに呼ばずとも俺は目の前にいるじゃないか。
「いっ伊佐、奈ぁ」
もしや、
「帰ってきてよっ、伊佐奈」
見 え て い な い か ?
ナマエは俺のベッドの上で膝を立てて座り、いつも俺を見上げてくる大きな瞳は、真っ赤になってぽろぽろと涙を溢していた。止まることを知らないかのように涙は後から後へベッドへ落ち白いシーツの海に溶けていった。その様は悲しみくれる人魚姫。
「ナマエ、いつまで泣いていても仕方ないだろう」
扉を開けて入ってきたのはシャチだった。
シャチは呆れと心配が入り混じったような声でナマエを諌めた。
「ごめ、んっ…わかっては、いるんだけど、涙が止まらないの」
「……落ち着くまで傍にいてやる」
ナマエの隣に腰を下ろすシャチ。
――シャチ、そこは俺の居場所だ…ナマエの隣は俺の……!!!
かっとなって尾を出してシャチをふっ飛ばしてやろうと振った。が、空振り。シャチの体をすり抜けた。
ああ、俺は世界にさえも拒絶されているのか。人間でいることさえも出来ず、ついには存在すらも抹消。ここまでくると何だか笑えてきた。
――ははっ
でもおかしい。
――あはははっ
なぜ笑っているのに涙が出るのだろうか。
俺の涙もナマエの涙と一緒に白の海に溶けていってくれないだろうか。あわよくば俺自身も泡になって消えてしまいたい。
嗚呼、でもこれじゃあ俺が、
人魚。