You don’t ask for help to me.


彼の象徴とも言える黒衣を翻して駆けるその前に立ちはだかれば、隠そうともせずに舌打ちをされた。その様子に肩を竦ませてみせたが、彼は鼻を鳴らしただけで顔色一つ変えはしなかった。


「本当に行くのか」

「もう我輩がここに残っていなければならない理由もなかろう」

「そうかもしれないが、」


遠くからはついにホグワーツを陥落させてやったという死喰い人の歓喜の声。対照的にホグワーツからは混乱と恐怖の悲鳴が聞こえるが、向かい合う俺とセブルスの間にはその静寂が横たわるばかりで、世界からこの場所は隔離されているんじゃないかとさえ思わせた。


「今のお前は死に急いでいるようにしか見えない」


しかし、空に鈍く輝く髑髏と燃えるハグリットの家が実際に起こっていることであること、同じ地で起こっていることであることを明確にしてくれている。


「もう少し考えてみてもいいんじゃないか」

「考える必要などない」


きっぱりと言い切るセブルスだが、その黒い瞳にはあの憎らしい赤い瞳とは全く逆の光を湛えてる。それさえも見抜けない俺ではない。――いや、よく知っている光だからこそ見抜けたのかもしれない。


「あんな簡単に死ぬような老いぼれの言いなりになる必要なんてない、そうだろう」


そう言ってみるが、セブルスは身動ぎ一つせず、俺の瞳を射抜くだけだった。この無言は肯定なんかじゃなく、拒否を意味している。
セブルスの固い決意を感じ取り、自然と苦笑いがもれた。彼の心を覆いつくすのは今も昔も変わらず豊かな赤髪を揺らす彼女だけなのだ。一途な彼は彼女への想いこそが一番で、その想いを貫き通すことができるのなら死さえ恐れるものではないのだ。
それか、もう死を受け入れたいのかもしれない。この悲しい初恋に終止符を打つためにも。


「それならこれを」


杖を一振りして、銀の蝋で封をしてある深緑色の手紙を取り出し、セブルスの元へと飛ばした。


「あの馬鹿に渡してくれ」

「自分で直接渡さないのか」


セブルスの白い指が宙に浮かぶ深緑を摘むのを見届ける。


「愚問だね、セブルス」


話しは終わりだという意味を込めて、道を譲るように横にずれると、セブルスは俺を横目に一瞥してから黒衣を翻し、闇に隠れるようにして駆けていく。
あっという間に小さくなってしまった黒い背中にぽつりと溢した俺の言葉は誰の耳に届くことなく、足元に広がる青い芝生に落ちた。


「You don’t ask for help to me」


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