今日は柏木さんに頼まれて堅生会の様子を見てきた。まだ設立したばかりの堅生会。堅気としての仕事を斡旋したり、ヒットマンの情報を集めてきたりするのは俺の仕事だ。もともと情報屋をしていた俺にはうってつけの仕事である。でも柏木さんは俺にこの仕事を任せるのをとても渋っていたのはまだ記憶に新しい。
「そんなに心配しなくても大丈夫なんだけどな」
でも柏木さんが俺のことを心配してくれていることが嬉しくて堪らない。にやつきそうな口元を押さえ、事務所に帰る前に一服して落ち着こうと寄ったのは第三公園。
ベンチにどさりと座り、ポケットから一本煙草を取り出して紫煙を燻らす。
事務所に帰ったら柏木さんに堅生会の視察の報告。それから組の為、堅生会にいる奴等の為、柏木さんの為に情報をかき集めなくてはならない。
昔のような手段を使えればあっという間に情報なんて集まるんだけど、柏木さんとの約束を破るわけにはいかない。柏木さんを裏切るような真似なんてしたくないし、なにより嫌われたくない。
そうなると地道に情報を集めるしかない。
柏木さんと出会う前の自分では考えられないことだ。俺って、根っからの面倒くさがりだし。
「でもまあ、いいんだけど」
「何がいいんだ?」
独り言で終わるはずだったが、予想外に返事が返ってきた。
「堂島会長…」
「やめろよ。お前にそうやって呼ばれると鳥肌立つ」
「そりゃ失礼しました」
「相変わらず可愛げねぇな」
つっけんどんに言えば大吾はそう返し、俺のベンチの端に追いやり真横に座ってきた。
別にお前に愛想振りまいたって仕方ねぇだろ。これが大吾じゃなく柏木さん相手なら話は別だけど。
「で、何がいいんだって?」
「今の自分も悪かねー、ってハナシ」
「なんだそれ」
若干ひいた目で見てくる大吾の足を踏んでやると、非難が飛んできたが気にしない。
大吾と俺は比較的年齢が近いことから大吾がムショ入りする前から親交があった。今こうして東城会六代目を引き継いでからは、柏木さんが東城会若頭になったのでさらに接する機会が増えた。
「つかお前なんでこんなところいるんだよ。会長なのにふらふらしててもいいわけ?峯くん探してんじゃねぇの?」
「探してるだろうな」
「他人事かよ」
「知ってるか、会長って意外と仕事あんだよ」
「知らね」
「興味ねーし」と続けると「だろうな」と大吾が笑った。
そうは言ったが仕事量も頭を悩ますことも半端じゃない多さだということは知っている。
若頭である柏木さんでさえ過労で倒れてしまうんじゃないかと周囲をひやひやさせるくらいだから、会長である大吾なんてもっと大変なんだろう。たまには息抜きだって必要だろう。でも柏木さんにその分の仕事量が回ってくるようなら、俺はこの横の馬鹿を数発殴る必要があるとは思っているが。
「あ、電話」
「出ていいぞ」
マナーモードにしていた携帯が振動で電話がかかってきていることを知らせてくるので、画面を見れば「柏木」の文字。大吾に「悪ィ」と謝ってから通話ボタンを押し、耳に寄せた。
「ナマエです」
「ああ、すまない。大吾を見ていないか?本部から抜け出したらしくてな」
受話器越しから聴こえてくる疲労の所為でいつもより覇気のない柏木さんの声に、ちらりと大吾を見る。
「大吾なら見ましたよ」
「本当か?!」
俺の言葉に慌て始める大吾。自分を探しているという内容の電話であることを俺の一言によって察したらしい。俺が大吾を見て、にやりと笑うと、顔色をさっと変えてじりじりと俺との距離を取り始めた。
「今目の前にいます」
「なら捕まえてくれ」
「わかりました」
そう言うが早いか、大吾との距離を一気に詰め、がっしりホールド。
「離せ」だの「俺に自由を」だのと喚き散らすので、腹に一発。呻く大吾。
「大吾は捕まえました。なので、帰ったら――」
ご褒美下さい。
「褒美?……あんまり高い物は駄目だぞ」
「物ではないので、大丈夫です」
さっさと峯くんに大吾を引き渡してミレニアムタワーに――柏木さんの許へ帰ろう。