悪夢と温もり
隊長もコワルスキーも新人も寝静まった夜。ふと目が覚めたリコはベッドにナマエがいないことに気がつきました。リコはそのまますぐには寝付けそうになかったので、梯子を登って外に出てみることにしてみました。


「ふっ、ううっ…」


外でえぐえぐと泣いている名前を見つけたリコは、小さくナマエの名前を呼んでみました。
その声に気づいたナマエは真ん丸の目にいっぱい涙を溜めて、振り返りました。その拍子にぽろぽろと涙が溢れます。
そんなナマエの様子にリコは驚きましたが、静かにナマエの傍に座ることにしました。
リコは、悲しいときには誰が傍にいてくれるだけで少しは安心できることを知っていました。


「リコ…?」


きょとんとするナマエにリコは背中をぼんぽんと何度か叩くと、頷いてみせました。


「ありがとう、リコ」


リコが自分を励ましてくれているんだとわかったナマエは、ふふっと笑って目尻に溜まった涙をヒレで拭いました。リコは優しく優しく頭を撫でてやり、どうして泣いていたのか聞きました。


「怖い夢をみたの」


怖い夢?
リコはナマエが怖がる夢とはどんなものか想像しました。
お化けも怖がらないし、エイリアンだって恐くないと豪語しているナマエ。リコはナマエが何かに怖がっているのを見たことはありませんでした。
首を傾げるリコにナマエは続けました。


「真っ黒い靄みたいなのが、皆をやっつけていっちゃうの」

「ミンナ?」

「そう、皆。隊長もコワルスキーも新人も…リコも私も」


ナマエは急に立ち上がると数歩歩き、どぽんと水の中に姿を消しました。
リコが水辺に近寄るとナマエは背を下に向け、ぷかりと浮かんで続けます。


「ぼろぼろになりながら戦い続けるんだけどね、一人…また一人って…死んでいくの」


その光景を思い出したのか目尻から涙が流れ、プールの水に溶けていきます。


「怖い夢だったなぁ……本当に怖い夢…」


声が震えているナマエの顔は悲しげに歪められていて、リコは胸が苦しくなりました。
でもそれを振り払うかのように、助走をつけ、プールに派手にダイブしました。
大きな水飛沫がナマエを襲い、ナマエがリコに文句を言ってやろうとリコの方を向こうとすると、ぐっとヒレを掴まれプールの底へと向かうかのように水中に引きずり込まれました。
それから抱き締められ、ぐるぐると踊るように回りました。そして今度は勢いよく水面へと向かい泳ぎ始めたリコにナマエはされるがままです。
ざばっと水中から空中へと出るとリコはさらに高くナマエを放り投げました。ただただ驚くばかりのナマエとその体は重力に逆らうこともなく、地面へと戻っていきます。床に叩きつけられると思い、ぎゅっと目を瞑りました。
しかしいつまで経っても衝撃も痛みもきません。恐る恐る目蓋を開いてみると、リコの顔がすぐ近くに見えました。
リコはナマエを見て笑い、言いました。


「ドッカーン!」

「そんな悪い奴が現れてもリコがやっつけてくれるっていうの?」


何度もこくこくと頷くと、リコは嬉しそうにナマエをぎゅっと抱き締めました。


「それは頼もしいな」


ナマエもリコの背にヒレを回して頬を寄せました。

悪夢と温もり


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