勇気を持って大好きなあなたへ
今日の任務も無事に完了。基地に戻ろうと人間にばれないように気をつけながら皆で移動しているとナマエが私のヒレを握ってきた。どうしたのかと見てみれば、恥ずかしそうに視線を宙に彷徨わせていた。そういえば最近ナマエと一緒にいる時間が少なかったな。こうして触れ合ったのは久しぶりか。コワルスキーにもリコにも新人にも私たちの関係は話してはいない。それはナマエが希望したことだった。他のものに知られるのは恥ずかしいらしい。
ナマエは大層な恥ずかしがり屋で、客に媚びるときや任務のときも、人間の前に出ることはおろか動物の前に出ることさえ困難なくらいだった。そんなナマエが自分から私のヒレに触れたのだ。これは大きな一歩になることだろう。


「た、隊長っ」

「なんだ」


私のヒレに触れている己のヒレに力をぎゅっと込め、弱弱しい声で私を呼んだ。


「コワさん、先に行っていてください!」


ナマエが先を行くコワルスキーに声を掛けると、その返事としてこちらをちらりと見ると敬礼をしてリコと新人を引き連れて地面を滑っていった。それを見送っていると今度は急に私のヒレを引いて、木の上にするりと登っていった。さすがだ。やはり身体能力はナマエが一番高いな。


「隊長に、お聞きしたいことが、あります」


ナマエは枝先がある側に行くと、私を枝の幹寄りに座らせた。そして枝を跨ぐようにして腰を下ろしたナマエに顔を向けると、私の肩に手を置いてぐっと顔を近づけた。


「隊長、私と結婚してくださいませんか?」

「は…?」

「や、やっぱり、駄目ですよ、ね」


あははと力なく笑うナマエだが、急に何を言い出だすんだ。結婚?まだ恥ずかしがってキスの一つさえ許してくれないナマエが…プロポーズ?


「い、いや、駄目とかではない。断じてないんだが、何故急にそんなことを…」


もしこれがプロポーズならば、こういうものは男からしたかった。私からナマエにびしっと。もっとロマンチックに、夜景がきれいな高級レストランで魚を食べながらとか。勿論指輪だって用意する。


「隊長、指輪です」

「そうか指輪か…………って指輪ぁ?!」


かぱりとケースを開けるとそこに現れるシルバーの指輪。


「私、隊長と結婚したいんです。ずっとお傍にいたいのです」

「ナマエ…」

「そう願っては、いけませんか」


涙目で訊ねるナマエに頭を横に振った。そんなことない。私だってナマエと一緒になりたい。


「結婚しよう、ナマエ」


ぎゅっと指輪ごとナマエを抱き締めてやれば、ナマエの涙が私の羽毛を濡らした。




勇気を持って大好きなあなたへ


(「ただ、」)(「?」)(「誰の入れ知恵だ」)(「……マリーンが今は女から行かないと駄目だって」)(「余計なことを…」)
(おかげで先を言われてしまったじゃないか)


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