俺の知り合いは皆揃ってこう語る。「宮田先生ちょうこわい」と。けれど、俺にはどこが怖いのか全く理解出来ない。宮田先生は普通に良い人だ。問診中だって親身になって聞いてくれるし、なんだかんだ人生相談も乗ってくれる。風邪引いた時なんて家にすっ飛んで来てくれたし、身体は大切に、なんて言いながら忙しい身なのに看病までしてくれる、とっても良い人だ。なのに、皆にそれを言うと「いやいやいやないないない」と真っ青な顔で否定される。むしろそれお前だけじゃね?とかも言われるけど、断じて違う。先生が良い人なだけだ。 「じゃあ、名前さん。気をつけて下さいね」 今だって、軽い捻挫をしただけの俺に何回も何回も注意を促してくれている。ちょっとやり過ぎな気がする包帯には目のやり場に困るけど、これはこれだろう。わざわざ午前の予約診察を切り上げて俺の診察時間を入れてくれたんだから文句は言えない。 ありがとう、なんて陳腐な感謝を述べれば、先生は照れたように小さく笑った。 「名前さんの為ですから」 思うんだけど、先生って表情豊かだ。大抵は微笑んでるし、心配そうな顔とか不安そうな顔とか、たくさんする。みんなが怖がる無表情もあんまり見ないし、淡々として抑揚がないってのも疑わしい。 逆に、わかりやすいくらいだ。求導師様とまではいかないけれど、嬉しそうだったりすると花が飛び散る幻覚まで見えてきそうになる。なのに、なんでみんなそんなに敬遠してんだろ。 「先生ってさ、本当に優しいよね」 「医者として、当然の対応ですよ」 「でもさ、それでも優しいよ」 きっちり固定されたおかげで痛みを感じなくなった足で立ち上がって、俺は先生を見る。 苦笑する先生はやっぱり素直で可愛い人で。皆が言う"冷徹で無表情"なんて全くわからない。こんなに患者さん思いな先生いないのに。 「宮田先生。俺、先生のこと大好きだよ」 「ぇ」 「誰がなんと言おうと大好きだから!」 例え皆が怖いって言おうと俺は宮田先生の味方だ。 ぎゅうっと手を握り宣言すれば、先生は顔を赤らめてはにかんだ。嬉しいです、なんて。返される言葉に俺も嬉しくなって、でも少し気恥ずかしくなって頬を掻く。 「だからさ、困った事とかあったら遠慮なく言ってね。俺に出来る事ならなんだってするし…」 本心からそう言って、俺は先生の手を離した。キョトンと見上げる先生に笑って、荷物を持つ。 もうそろそろおいとましよう。先生に迷惑だし、俺自身照れが限界に達していて危ない。 「それじゃ、俺もう行くね?ありがとう先生」 「ぁ、名前さん…っ」 「ぇ…?」 言い逃げするように扉に向かった身体は、されどふわりと背後から抱き着かれた事で止まった。白い腕が二本、俺の身体を拘束している。 驚いて首だけ捻って後ろを向くと、未だに頬が紅い先生とバチリと瞳が合った。眉を下げてなにやら切羽詰まったような表情をする先生に、少しドキリとする。 「先生…?」 「俺も名前さんの事、好きです」 そのまま、囁かれた言葉に俺は瞳を見開いた。かぁっと真っ赤に染まる先生の顔を凝視すれば、隠すように俯いてしまう。 初めて先生から言われたその言葉に、胸が激しく脈打っているのがわかる。絶対に今、俺の顔は赤い。 「もぅ、診察終了です…」 そのまま拘束が解けて、背中を押された。慌てて振り返るが、タイミング良く来た看護婦さんに扉を開けられてしまい、会話が続行出来なくなる。 どうぞ、なんて言って開けといてくれる看護婦さんを待たせるわけにもいかず、俺は背後を気にしながらも診察室から出る。未練たらしく扉を見ていれば、扉が閉まる前に、ひょこりと先生が顔を出して、バチンと視線がかち合った。 「また、今度…」 泳ぎまくった目線。茹蛸のように赤い顔をした先生が、耐え切れないとでもいうようにそのまま勢い良く扉を閉めるのを見届けながら、俺は小さく笑った。 -----------** はくと様 に捧げます! デレ、というよりは初々しい感が否めません。ですがデレと言い張ります← ご期待にそえられたかはわかりませんが、喜んでいただけたなら幸いです! リクエストありがとうございました^^ |