昼の休憩時間になり急いで更衣室に向かう。 サブウェイマスターの証の上着を脱いでYシャツの上にベージュのカーディガンを羽織る。薄着ではあるが外の移動は一瞬だろう。 「お待たせ」 小走りをしながら髪を手櫛である程度整えた。 「遅いおそーい!」 「クダリ、目立つのであまり大声を出さないで下さいまし」 「ごめん、でもこれでも急いだんだよ」 腰に手を当てて仁王立ちするクダリもそれを宥めるノボリも仕事の時とは違い、私服。 何故揃いに揃って私服なのかというと、これから私達は回転寿司に行くのです! 昨日テレビで寿司特集をやっていたのをクダリが観たらしく、半強制的に三人でお寿司屋さんに行くことになったのだ。お寿司好きだから私は嬉しいけどね。 けれどここで問題が生じる。 就任当初の私はサブウェイマスターという仕事を嘗めていた。嘗めきっていたのだ。二人ともごめんね! でもまさかサブウェイマスターがこんなにアイドルのような扱いを受けるなんて私は知らなかったのだ。色んな地方を旅をしていた私はイッシュのこと知らなすぎた。初めてファンの子達が二人を取り囲んでいる様を見て私は思った。 “私がイッシュにいない間にサブウェイマスターという役職はアイドルになったんだ”と。 それをクダリに言った時は大笑いされた。 そんな私にも今ではファンの子が付いてくれている。 それは私のバトルスタイルが認められてきているという事であるからして、素直嬉しいんだけれど…代償として堂々と外食したりやホームをぶらつくことは出来なくなった。 だから変装。 変装と言っても服装変えるぐらいだけど。 「早くしないと休憩終わっちゃう」 「わかりましたから引っ張らないで下さいまし!」 ジーンズを穿いたクダリは私の手と黒のジャケットを着たノボリの手を引いて走り出す。 冷たい風は私の頬を撫で、服を通り抜けて体温を奪っていった。 ああ、もっと厚着すればよかった! 「いらっしゃいませー」 従業員が元気のいい声で迎え入れてくれた。店内は暖かくていいね。 「何名様ですか?」 「三名でボックス席でお願いします」 「わかりました。ご新規三名様入りまーす」 まだクダリとノボリよりも顔が知られていない私が答えると、店員が私達を先導するように歩き出したので私達は慌ててそれについて行った。但し下を向いてだけれど。 「それではこちらの席となります。ごゆっくりどうぞ」 そう言ってさっさと立ち去った従業員を見届け一安心。どうやらバレていないようだ。 「さあて!いっぱい食べるぞー」 「それは結構ですが、午後の仕事に影響が出ない程度にお願いしますね」 「何食べよっかな」 それぞれお絞りで手を拭いて湯飲みにお茶を入れ、醤油皿や箸を自分の前に並べて食べる準備は完了。 因みに席の並びはクダリの前に私が座っていてその隣にノボリといった具合。 クダリと私は食べる気満々なのでレーン寄りを陣取っている。 「ぼくマグロ」 早速クダリが一皿取った。 「じゃあ私はエビにしよっと」 次に私がレーンに手を伸ばしえびをゲット。 「わたくしはサーモンをお願いします」 「はいはーい」 ノボリはレーンから遠いので私が皿を取ってやる。 「それじゃあ頂きまーすっ」 箸を割ってエビを挟み醤油を浸けてから口に運ぶ。お、美味しい!これが100円とは思えない…!もう一皿エビ食べようかな。 ってクダリはもう二皿目取ってるし。 「そのアジを取って下さいまし」 「あ、うん」 ノボリも早いな。 私は取り敢えずまたエビ食べよう。 「そう言えば、この間駅にいた男の人にナマエのスリーサイズ聞かれたよ」 「うっ」 「げほっげほっ」 イクラ軍艦片手にいきなり何を言い出すんだこの人は!喉にしゃりが詰まりそうになったので慌ててお茶を飲んで喉の奥に無理矢理押しやり、咳き込むノボリの背中をさすってやる。 「げほっえほっ…あ、ありがとうございます。それでクダリは教えたのですか」 「ううん、教えてないよ」 それを聞いてほっと胸を撫で下ろした。そして隣のノボリもほっとしていた。何故ノボリもほっとしてんだ。 「まあ教えようがないもんね、そりゃそうか」 「え?」 「…え?」 不思議そうな顔で見てくるクダリ。 そして私も不思議そうな顔で見返す。 「ぼく知ってる」 「は…はいぃいい!?」 「クダリ、お待ち下さい。何故あなたがナマエのスリーサイズを知っているのですか」 「毎日ぎゅってしてるから何となくわかる」 にこっと笑ってイクラを口に放り込む。 そんな事考えてただなんて…。な、なんて恐ろしい子…!もうクダリとはぎゅってしない、もう止めよう。 「なんと破廉恥な…!」 ぷるぷるして顔を真っ赤に染めるノボリも大概破廉恥だからね。 それから大分食べてから店を出た。 自動ドアを抜けて外へ一歩踏み出すと冷たい外気に体をブルリと震える。 さ、寒い! 暖かくて居心地の良い店内を南国だとしたら此処は北極だろう。暖まった体が一気に冷やされていく。 やっぱり薄着なんてしてくるじゃなかった。ウルガモスを出して暖まるにしても準伝説のポケモンを出すのは目立ちすぎる。…仕方ない、ギアステーションに戻るまで我慢するか。 指先を摺り合わせ少しでも熱を得ようとしていたら肩に何かの重みが。 「寒いのでしょう?」 どうやらノボリが自分が着ていたジャケットを脱いで肩に掛けてくれたようで。 「あ、ありがとう」 柄にもなく照れてしまった。 「ぼくもっ」 その一連の流れをクダリは見ていたようで着けていた手袋を外して私の手に嵌めてくれた。 「ありがとう」 そのままクダリの頭を撫でようとしたが手袋のまま撫でたら静電気が起こることに気付く。頭の上に翳した手を引っ込めて変わりに頬を軽く撫でてやると、クダリは嬉しそうに目を細めた。 「さあ戻りましょう」 「うん」 それからギアステーションまで三人で手を繋いで帰った。 ← |