わたくしの通信にマルチトレインの挑戦者が勝ち抜きそうだと入った。しかしクダリはダブルトレインでお仕事絶賛中とのことでしたので、暇をしていたナマエを引き連れマルチトレインに揺られる。 「屋根より高い鯉のぼり〜」 「な、何をやっているんですかあなたは!」 「え?何って鯉のぼりを泳がせてるんだよ」 さも当然のように列車の窓を開けて、小さな玩具の鯉のぼりを外に出している幼なじみに頭が痛くなる。 スピードを出している列車のお陰で勢いよく宙を泳いでいるものの、風が強すぎるのか些か苦しそうにも見える。まさに死に物狂い、という表現がしっくりくるようなそんな様だ。 「危ないのでお止め下さいまし」 「うーん」 なにか言いたそうな風のナマエでしたが見なかったことにして、手に握られている鯉のぼりを奪い取る。この調子ではわたくしの目を盗んでまたやる決まっております。 「なんだか最近クダリに似てきましたね」 肩を落としてぼそっと呟くが、ガタガタと車体が揺れる音に掻き消されナマエの耳には届かなかったようだ。あの花見の後は大変だった。ナマエは酒を湯水のように煽ったし、わたくしもいつもと比べものにならないほど飲んだ。 もうわたくしからはナマエにお酒を控えるようには言えませんでした。 ナマエはクダリが酔っ払っていたから自分にキスをしたんだ、一時のテンションに身を任せた過ちだと解釈したらしいですがわたくしには分かりました。クダリは確かに酔っていましたが、意識はしっかりしておりました。そしてこれがわたくしへの挑発の意味も含まれていることも容易に理解できたのです。 「ノボリ…、ノボリ!」 ばしばしと強めの力で腕を叩かれ強制的に意識がこちらに戻される。 なんですかと隣のナマエを見やると目で向こうを見ろと促され、車両を区切る扉に視線を移すとそこにはトウヤ様とトウコ様の姿。しかもお二人とも困ったような表情を浮かべられていていました。 「も、申し訳ございません」 すぐさま頭を下げ非礼を詫びる。するとお二方は気にしないでくれと矢継ぎ早におっしゃられましたが、わたくしとしては職務怠慢。気にしないわけがないのです。 「まあまあ。きっとノボリの気も済まないと思うから二人には私とノボリからこれをプレゼントしまーす」 ほら、と肘で小突かれナマエを見ると私から没収したでしょと言われる。そうだと思って自分の手元を見ると先程ナマエから取り上げた玩具の鯉のぼり。ですがこれはナマエの物。あげてもいいものなのか分からず固まっていると、わたくしの手を取りトウコ様とトウヤ様に差し出した。 「これで許して、ね」 そう言って笑うナマエに、苦笑いしながら頷き受け取るお二人。 その強引さがいかにもナマエらしくてわたくしも僅かながら笑いを浮かべた。 ← |