げきりん | ナノ



テレビからはつんざくような女の叫び声。追うようにゾンビのようにして床に這い蹲る長い黒髪の幽霊が現れる。

在り来たりな展開。
差し詰めB級ホラーと言ったところか。

期待外れでがっかりしつつ横を見ればナマエはひどく怯えた表情を浮かべていた。ぼくからしてみればどこでそんな怖がるようなシーンがあったのか尋ねたいぐらいだけど、ホラー系苦手みたいだから仕方ないかと自己完結。

大きな音が鳴ったりお化けが画面に映ったりする度、肩を揺らし手をぎゅっと握りしめて驚く様はナマエには悪いけど本当に可愛い。

力が込められてる手にぼくの手を重ねてみる。
この行為にすらも吃驚したのか、びくりと体を震わせこちらに顔を向けたけど、ぼくは何も無かったかのようにテレビに目を向けていた。それを見たナマエもぼくに倣ってゆっくりとテレビを見る姿が視野に入り、可愛いなあとほくそ笑むぼく。


「ねえナマエ」


ぼくはナマエが驚かないようにと出来るだけ優しく声を掛けるよう努めた。体が硬直してるのかぎこちない動きでぼくの方に顔を向けるナマエを愛おしく感じる。それと同時にぼくの嗜虐心が擽られた。


「この映画、実はちょっとした噂があるんだってさ」


恐怖で潤んだ瞳でぼくを見つめるナマエは首を傾げる。


「なにそれ?」

「あのね」


わざと間を空けてから言葉を紡ぐ。


「これ呪いのDVDって言われてるみたいでね、観た日の夜に白ーい女の人が枕元に立つんだって」


実際こんな噂なんてない。ぼくの即席の作り話。
でもナマエの瞳からはぽろりと涙が零れ落ち、力弱くぼくの服の端を掴む。

こうしてこの日ぼくはナマエの家に泊まる切符を簡単に手にした。いつもはノボリに阻止されちゃうけど、そのノボリは今日いない。
本気で怖がるナマエはぼくから片時も離れることがない。一晩中ナマエを独り占めにすることが出来る優越感にぼくが浸ったのは言うまでもない。

でも次の日作り話がバレてノボリとナマエに凄く怒られちゃったのは別の話。