げきりん | ナノ



風呂上がりに一杯やろうかと思い、まだ湿った髪をそのままに首にタオルを引っ掛け冷蔵庫を開けるているとガチャリと玄関がの扉が開く音が聞こえた。


「DVD借りてきたんだ、ナマエ一緒に観よー!」


家のチャイムも鳴らさずに我が物顔で我が家に侵入してきたのはクダリで、手にはおどろおどろしい文字でタイトルが掛かれているDVD。


「え」

「?もしかしてナマエ苦手?」

「……ノボリと観なよ」


肯定するのも何だか悔しいので質問には応えなかった。
正直ホラーは大の苦手。ゴーストタイプは苦手じゃない、寧ろ好きな方なのに得体の知れない幽霊とか怨霊は無理だ。怖い。
ホラー番組観ちゃった日には夜眠れないくらいだ。


「今日はノボリ残業だって」

「そっか。でも私は観ないからね」

「ええー、一人じゃつまんない!」

「なら観るな」


クダリの意見をばっさり切り捨て、ソファーに座り缶チューハイのプルタブを起こし指を引っかけ開ければプシュッという小気味好い音が鳴った。


「あー、チューハイいいな、ぼくにも頂戴」

「別にいいけど座る前に言ってよ」


疲れた体に鞭打ち座ったばかりのソファーに別れを告げローテーブルの上に握っていたチューハイを置いて立ち上がった。
のろのろとキッチンへ行き冷蔵庫を開いて葡萄味の缶チューハイを取り出す。生憎この味しかストックがないのだ。



リビングに戻ってきてみればクダリはソファーにふんぞり返って座っており、手には何故かリモコン。しかもDVDデッキの方の。瞬時に画面に目を向ければ黒が埋め尽くす画面の中にぼんやりと人のようなものが映っていた。

そしてパニック。


「ななな、なにやってんの!ちょ、消してよ!」

「嫌、ほら一緒にナマエも観ようよ」

「だめだめだめ、ほら消して、早くっ」

「ぼくと一緒なら大丈夫」


強引にクダリの隣に座らされ、取ってきた缶チューハイを奪い取られた。


「それに今から一人で寝られる?」


その問いに抵抗をやめる。

無理だ。もうすでに脳裏に焼き付いてしまった先程の黒と揺らめく人影。もう観てしまったのだ、それなら覚悟を決めてクダリと一緒にいた方がいいかもしれない。もし一人で寝るにしてもリビングからDVDの叫び声とか聞こえてきた日には私はもう駄目だ。絶対に寝れない。

力なく首を横に振ればクダリは満足そうに口角を釣り上げ、ローテーブルの上に放置されていた私の缶チューハイを手渡した。