「おっはよー!」 「おはようございます。朝からクダリと然程変わらないテンションですね、何か良いことでもあったのですか?」 「ちっちっち、これからあるのだよノボリ君」 人差し指を立ててわたくしの顔の前で左右に揺らすナマエ。そして何故君付けなのでしょうか。まあ聞いたところで大した答えは返ってこないでしょう。 「どういう事でしょうか」 「今日は何の日かな?」 「2月3日…節分、ですね」 「イエス!その通りだよ」 「ですが節分で何故そこまで喜ぶのか…」 「ノボリはわかってないなあ。恵方巻きだよ、恵方巻き!」 大袈裟な動きで両腕を広げる。 まだ始業前で良かった。いつもより大分テンションの高いサブウェイマスター─しかも理由が恵方巻き─はお客様にお見せできませんから。 「はあ」 「…え、何でそんなにリアクション薄いの」 「いえ、わたくしには逆に何故恵方巻きでそこまでテンションが上がるのか」 「く、クダリはわかってくれたもん!」 「クダリと比べないで下さいまし」 きっぱり言えばしゅんとする。 「…ごめん」 「わかれば良いのです」 「というわけで今夜みんなで恵方巻きしようね、バイバイ!」 言うが早いか嵐のように立ち去ったナマエの後ろ姿を見送り、今夜勝手に開かれるらしい恵方巻きパーティーを思いながらわたくしも始業準備をしなければと歩みを進めた。 「ちゃんと自分の恵方巻き持った?」 「はい」 「持ったよー」 「じゃあ今から喋っちゃ駄目だからね」 そして三人で同じ方向を向いて太巻きを食べ始める。テレビの中の人だけが喋っているだけでとても静かな食事。いつもはクダリが喋っているのでこんなに無言なことはないのです。ナマエが遊びに来ている時は更に賑やかになるのですが。 ちらりとクダリとナマエの様子を見るとクダリは真剣な様子で太巻きにかぶりつき、ナマエはとても美味しそうに食べていました。そういえばナマエは太巻きが好きだった気がいたします。だから今朝あんなにも機嫌が良かったのですね。 「食べ終わった!」 ナマエはクダリの方に顔を向けて一時停止。確かにナマエはまだ半分程しか食べていないですからね、驚きもします。 「えー、まだそれだけ?ナマエ早く食べて」 ねえねえ、と横からのぞき込むクダリを視界に入れないようにしているのか顔を逸らすナマエ。それが気にくわなかったのか更にちょっかいを出され始めたナマエが可哀想になってきた頃、わたくしの太巻きもあと一口。最後の一口を食べからクダリをナマエから引き離す。 「クダリ、ナマエは食べているのですから話せないのですよ」 「ぼく、ナマエと早く話したい」 「我慢して下さいまし、食べ終わったら沢山お話しすればいい事ではありませんか」 「そうだけど…。じゃあ今日はナマエ、泊まり!」 「……それはナマエに聞かなければ」 わたくしとクダリの視線に気が付いたのか口をもぐもぐと動かしながら首を縦に振った。 「決まり!じゃあぼくお風呂の準備してくる」 パタパタと足音を鳴らしながら風呂場へ向かったクダリを見送る。 「あー美味しかったー」 「無事食べ終わったのですね」 「うん。クダリが話し掛けてきた時は危うく喋りそうになったけどね」 「ですが、良かったのですか?」 「何が?」 「今日の泊まりです。明日の夜、用事があるのでしょう?」 「まあ大丈夫だよ、会って食事するだけで大した事じゃないし」 ナマエはだるそうに答えて目を閉じた。 一体誰と食べに行くのか気になりましたが、風呂場からクダリが帰ってきたので聞くのは止めました。 ← |