風呂から上がってタオルで簡単に髪の水気を取っているとインターホンが鳴った。 リビングからはクダリの笑い声とテレビから流れる声が聞こえる。クダリはテレビに夢中のようですのでわたくしが出るしかありません。 髪の水分を吸い取って湿ったタオルを洗濯機の中へ放り込み玄関へ向かう。 こんな時間に来訪する方は一人しかいません。 「お醤油頂戴」 案の定扉を開ければ幼なじみの姿。ですが一つ問題がありました。 「あ、…あなたその格好は…!」 「?いつも家じゃこれだけど」 「だからってこのような格好で表を出歩かないで下さいまし」 「えー」 「わかりましたか」 「はいはい善処しますよ」 Yシャツに赤ジャージ。 前髪は上げてピンで止めて他の髪は一つに束ねている色気もなにもない状態。 多分Yシャツは仕事の制服でしょう。 「それより醤油下さい、切れちゃったんだよね」 「わかりました、今用意しますので上がっていて下さい」 「お邪魔します」 玄関で靴を脱いでリビングに入って行ったのを見て自分も醤油の用意をしにキッチンへと入った。 ええと、醤油を渡す入れ物が必要ですね。何か良い物はあったでしょうか。 戸棚を開けて探しているとクダリとナマエがひょっこり顔を覗かせた。 「ナマエ、もう少し待って下さいまし。今入れ物を探していますので」 「ありがとうノボリ」 「いえ」 「ねえ聞いてノボリ」 「何ですか」 「ぼくもナマエが着てるジャージ欲しい」 「そうですか。ならお金ならあるでしょう、買ったらいいではありませんか」 「うん、でもぼくだけだと駄目なの」 「…と言いますと?」 「ぼくは三人でお揃いにしたいの!」 「…はい?」 「だからノボリも買って着よう」 「さっき話してたんだけど、クダリが緑でノボリが青で私が赤。どう?」 「いや、どうと言われましても…」 いつの間にか作業していた手は止まっていた。 こちらを爛々とした目で見てくる二人。 「買ってもいいですが、」 「が?」 「着ませんよ」 「えー」 「何でさ、ジャージって楽だよ」 「それは存じておりますが…」 パタパタと駆け寄ってわたくしの服を掴むナマエ。 「ねえいいじゃん、家で着るんだし」 「ノボリ、お揃いしようよ」 クダリまでわたくしの服を掴んできて…。 「………家でだけ、ですよ」 「やった!」 「ありがとう!じゃあ今度二人の分買ってくるね」 「お願いします」 「よろしくー」 「じゃあ私帰るね」 「わかった」 「おやすみーまた明日」 「お休みなさい」「お休み」 そして玄関で靴を去って行ったナマエを見送る。 …ん?何故ナマエはうちに… 「く、クダリ!ナマエを呼び戻して下さいまし!!」 「え、何で?」 「あの方、うちに醤油を分けて貰いに来たのに忘れて帰ったのです」 まったく。 少しはしっかりして欲しいものですね。 ← |