げきりん | ナノ

 
 
バトルサブウェイのホームで電車待ち。
次来るローテーションに乗るように伝達がきたので待機しに行ったら私の他にノボリがいた。
それにしても、


「寒いぃい」

「冬なのですから当たり前でしょう。我慢なさい」

「無理無理」


休憩室暖かかったのになんでホームはこんなに寒いんですか。早く休憩室に戻ってぬくぬくしたい。取り敢えずトレインの中も暖かいだろうから早く来てくれ。


「電車が参りましたよ」

「マイスイートハニー、待ってたよ!」


そして目の前に電車が停車する。
でもこのラインの色のトレインって…。


「わたくしの方が先だったようですね」

「ちくしょぉお」


隣のノボリが悠々と歩き出すのを見て地団駄を踏む。
何だよ!期待したじゃないか!


「それでは」

「ノボリのばあか!」


そしてドアが閉まりそのままシングルトレインは発車。
あーもう最終手段のウルガモス出していいかな。すっごく温かいんだよね、特性がほのおのからだだから。
モンスターボールからウルガモスを出して抱きかかえて備え付けのベンチに腰を下ろす。座った時、ひやっとしたがこれくらい我慢しなくちゃ。服越しにウルガモスの温かさが伝わってくる。夏は暑いんだけど冬には丁度いいんだよね。冬はウルガモスの出番だなあと思いながら孵化作業にも貢献してくれているウルガモスを撫でた。

そしてやっとの事でスーパーローテーショントレインが到着した。


「ありがとうウルガモス」


ウルガモスを戻してトレインに乗り込むと一気に暖かい空気が私を包んだ。
あ、暖かい…。
私が車両に乗り込んで椅子に座るとトレインは発車して、窓の風景は駅のホームから真っ暗な闇へと変わる。単調なリズムで光が走るがそれ以外は真っ黒。
ベンチとは違う柔らかい座席のシートと適当な温度と揺れ。私の意識が奪われるのはそう時間が掛からなかった。




48連勝して次が49戦目。
スーパーローテーションでここまで勝ち抜いたのは初めてでドキドキする。
緊張状態で次の車両へと進むと誰もいなかった。
え?まさかナマエさんボイコット?それとも今ノーマルトレインの方に駆り出されてるのかな。
困ったなと思いつつ、取り敢えず座って待つことにしよう座席に腰を下ろそうとしたら一時停止。
いた。いたけど、寝てる。
目を閉じ小さく寝息を立てるナマエさんは無防備だった。
睫毛…長いな…。髪もさらさら。
触ってもいいかな。
ナマエさんが起きないようにと慎重に触れるとさらさらと髪が流れた。

がたん。

大きく車体が揺れる。きっとカーブだったんだろう。さっきの揺れで俺はバランスを崩してとっさにナマエさんの後ろの窓に手を突いた。すると必然的にナマエさんの顔と俺の顔が近くなるわけで。

顔に熱が集まるのを感じつつも、体を起こして距離を取ることが出来なかった。
それどころか次第に近くなっていって…。


「ううん…」


咄嗟にナマエさんから離れる。な、何してるんだよ俺!いくら無防備にナマエさんが寝てるからって、こんなことしていい訳がない。


「ん…何でトウヤ君が目の前に…?」


眠そうなトロンとした目でこちらを見つめてくるナマエさん。無防備にも程があるだろ。

「…あっ!そうかあれから私寝ちゃったんだ。ご、ごめんねトウヤ君、待ったよね?起こしてくれて良かったのに」

「大丈夫ですよ気にしないで下さい」

「でも悪いよ」

「なら」

「何々?」

「ナマエさんのライブキャスターの番号、教えて下さい」

「え?」

「駄目、ですか?」

「そのくらいなら」


ごそごそとお互いにライブキャスターを取り出して番号を交換した。前からナマエさんの番号が欲しかった俺としては罪悪感を感じているナマエさんには申し訳ないけど、ラッキー。
寝顔も見れて番号も交換出来て、俺としては大満足。


「折角ここまで来てくれたんだからバトルしなくちゃね」

「勿論です」


それからバトルで勝てればもっと満足!








まあだけど現実はそう上手くいかないもので。



「今回は残念だったけどまた来てね」


多少なりとも負けたことに関して落胆はしてるけど、それを見せたらきっとナマエさんは気にするから気にしていないように振る舞った。

ナマエさんのポケモン達は本当に強い。勿論どんな逆境でも冷静さを保って的確な指示を出せるナマエさんも強い。
あーあ、また1戦目からやり直しか。頑張ろう。

そんなことを考えていると電車が駅に停車。
電車から俺が降りるとナマエさんもその後降りてきた。販売機で飲み物を買うらしい。


「ナマエさん、今夜連絡し「ナマエ!」


向こうから此方に走って来たのはクダリさんだった。


「お仕事お疲れ様、早くナマエは休憩所に戻ったほうがいいよ」

「え、なんで」

「休憩所じゃなくても仮眠室でもいいから、ゆっくり休んで」

「…!もしかして監視カメラ見て私が居眠りしてたの見た?」

「あったりー」

「の、ノボリはそれ…」

「大丈夫、ぼくだけだよ」

「良かったあ」


ほっと胸を撫で下ろしているナマエさん。確かにノボリさんってそういう所、厳しそう。


「お願いだからこのことは」

「秘密、でしょ?」

「うん」

「わかってる。ナマエは早く仮眠とってきて」

「ありがとうクダリ。じゃあまたねトウヤ君」

「はい、また」


手を振りナマエさんに手を振り返す。
じゃあ俺ももう行こうかな。
「それじゃあ失礼します」とクダリさんに告げてライモンシティ行きトレインに乗ろうとしたら、腕を引っ張られて引き留められた。


「待ちなよ」

「なんですか?」


目の前クダリさんは明らかに苛々していた。
敵意を隠そうともしていない。

「ぼく暇だったからずっと監視カメラのモニター見てた」

「…だからなんですか」

「君ナマエが寝てた時に、何しようとしてたの」

「そ、それは」

「ナマエに何かしたら許さない」

「…クダリさんに許してもらえなくても結構です。はっきり言います。俺はナマエさんが好きです」

「………」

「確かにナマエさんの年下だし、まだクダリさん達よりも背は低い。恋愛対象として見てくれないでしょう」

「わかってるならどうして」

「それでも俺はナマエさんの好きなんです。だからナマエさんを振り向かせる為なら俺は何だってします」

「ふうん」


解せないというような顔をしているクダリさんを残して俺は電車に乗り込んだ。






そんなの無理だってわかってる。けどナマエさんをノボリさんとクダリさんから俺は奪いたいんだ。