SIREN | ナノ

宮田さんの昼休憩の時間を見計らって遊びにきた。


「メリークリスマース!」

「今日はイヴです」


サンタの帽子を被った俺はトナカイを模したカチューシャを宮田さんの頭につけて、この時期あちらこちらで聞くことができる台詞を言う。
……ずばっと切られてしまったが。


「そうですけど。俺明日仕事なんですよ」

「それが?」

「だから!明日にはメリークリスマスって言えないんです」


宮田さんは、だから何なんだと言いたげに眉間に皺を寄せる。
人の言いたいことを察することを宮田さんはつくづく苦手とする。


「俺が言いたいのは宮田さんにメリークリスマスを言えるのは今日だけだから、宮田さんにもメリークリスマスって言ってほしいんです!」

「ああ」


なるほど、と納得した様子の宮田さんはすぐに返した。


「メリークリスマス。…………これでいいですか」


投げやりな気がするけどこれは宮田さんのデフォルトということにしておこう、そうしよう。


「ありがとうございます。じゃあ写真撮りましょう」

「は?写真なんて撮りませんよ」

隠そうともせず物凄く嫌そうな顔をする宮田さんに俺はほくそ笑んだ。
嫌だ嫌だと言っても最終的に了承してくれる宮田さんは本当に俺に甘い。それを知っていて利用する俺は冗談でも性格がいいとは言えないだろう。


「美奈さーん!」


大声で美奈さんを呼ぶ俺に呼ぶなと慌てて口を塞いでくる宮田さんの苦労も虚しく、美奈さんはすぐに来た。


「呼んだ名前くん?あら、サンタの帽子似合ってるわ」

「ありがとう。写真撮ってほしいんだ」


鞄からデジカメを取り出して言うと、美奈さんは白くて細っこい手でそれを受け取ってにこっと笑い了承した。


「さあ宮田さん撮りますよ」

「誰もいいなんて、」

「じゃあ撮りますよー」

「おい」



はい、チーズ!


有無を言わさずにシャッターが切られる。


そこにはいつもよりもむすっとした宮田さんと、指でピースサインを作って笑顔な俺が写った。


クリスマスイヴ


(「今撮ったデータ見ますか?」)
(「……一応」)
(「はいどうぞ」)
(「…………!!!」)
(「宮田さん、トナカイカチューシャ似合いますねっ」)