雪がちらつき始めた羽生蛇村。 吐く息も真っ白く染まり、手も寒さに悴む。 少しでも暖をとろうと指先を擦り合わせてもちっとも暖かくならない。それどころか感覚すらない。 ──これは冷えすぎてしまいましたね。 散歩はこれくらいにして早く八尾さんの待つ教会に帰った方がいいだろうと判断。 「求道師様ーっ!」 歩みを教会への帰路へと変更してそのまま歩き続けると、私を呼ぶ声と共に背中にタックル。 振り向くとこれまた冬らしい格好をした名前くんが。 首には赤いマフラーを巻いて、厚手のコートに手袋。 そして手には紙袋を持っていた。 「ねえ求道師様寒い?」 こてんと首を横に倒して尋ねる名前くんに、そうですねと肯定を返す。 すると名前くんは、じゃじゃーん!と口で効果音を付けると手に持っていた紙袋を私に向かって突き出した。 「そんな求道師様にはこれをプレゼントです」 「開けてみても……?」 「勿論です」 胸を張ってどんと構えている名前くんですが、口許はにやにやと笑っていて何だか言い知れぬ不安が。 しかし紙袋の中身を除いてみれば、そんな不安は杞憂だったようで、 「これは……」 「一生懸命選んだんですよ」 そこにはマフラーと手袋。 「求道師様っていつも寒そうなんで」 少し照れたように笑う名前くんは自分の巻いているマフラーを口許まで引っ張りあげた。 「早速着けてみてくださいよ」 促されるままに袋から白い手袋とマフラーを取りだし着けてみる。 柔らかい質感のそれらは着ける前よりも私の体温数段上げてくれた気がした。 「よく似合ってます」 「ありがとうございます、本当に暖かいです」 いつものぎこちない作り笑いではなく本当の笑みが溢れる。 「よかった!求道師様いつも寒そうにしてるんで、バイト代入ったら絶対にプレゼントしようと思ってたんです」 そう言ってのける名前くんに胸がほんのり暖かくなった。 「でもいいんですか?貴重なバイト代を」 「いいんです、求道師様が風邪をひかなければ」 「ですが……」 それでも申し訳ないという気持ちが治まらない私は口を開こうとした時名前くんが僅かに背伸びをして、ちょこんと私の唇に人差し指を置いた。手袋を嵌めていたので少しごわついた指。 「ですが、は無しですよ」 それから猫のように眼を細めて悪戯っぽく笑った。 「それでも気になるんでしたらちゃんと身に付けてください」 使い道 (一度教会に行ってから八尾さんに言われて求道師様を追ってきたこと、言わなくてよかった) (きっと言ってたら頭下げてきたんだろうな) (俺はそんな姿が見たい訳じゃないんだけどな) (──まあ求道師様が喜んでくれたから結果オーライか) |