身を貫くような鋭い冷たさをもつ風が吹く。 今、宮田と名前は宮田医院の屋上に出て皆既月食を眺めている。 「見ろよ司郎!月すっげー赤いな!!」 「そんなにはしゃがなくても見えていますから」 言葉を交わす度に出る白い吐息が夜の闇に溶けて消えていくのが何とも幻想的。 しかし更に幻想的なのは勿論今日の月である。 「何で月食なのに月見えてんだろうな?」 皆既月食の様子にはしゃぐ名前の首に巻いてあるマフラーの端がだらりと垂れ下がったので、寒いだろうと直してやる宮田。 「地球の大気が光を屈折させて月を照らしているので見えるんですよ」 「へーえ!司郎はよく知ってんだな!すげえな!!」 宮田のうろ覚えの知識に感心している名前。その姿に、合っているかわからないなどと言うことが出来なくなってしまった宮田は心の中でリークした情報が合っていることを祈った。 「それにしても綺麗ですね」 「そうだな」 ずっと空を見上げていたので首が疲れたのか、ごろんとコンクリートの上に寝転がる名前とそれに倣う宮田。 「そろそろ皆既かな」 大分白く輝く普段見慣れた月の部分が隠れる。 「次の皆既月食も一緒に見ましょうね」 「その時もここがいいな」 ──月が太陽に隠れきった瞬間をまた君と。 皆既月食 二人の想い。 |