半分呆けたような年寄りばかり相手をして疲れた体を引き摺って帰宅すれば、出迎えてくれる人がいることにほっとする。 「おかえなさいませ」 「ただいま」 紺色のエプロンを着けたままの名前は俺から鞄を預かる。 「夕飯とお風呂、どちらを先になさいますか?」 「夕飯」 「左様ですか。ではすぐに用意致しますね」 会話だけ聞けば新婚生活真っ只中に思えるかもしれないが生憎俺と名前は主人と使用人の仲でしかない。 腐っても宮田。 金持ちの家には違いないのだ。 名前の親も宮田の家に仕えていたから、俺と名前は昔からずっと一緒だった。だから名前は俺専属の使用人になったのもずっと昔のこと。 「今日の夕飯はロールキャベツにしました」 「そうか」 「食後のデザートは司郎様の好きなプリンですので」 ウインクをして、苺も添えておきますから、と言ってみせる名前に全身の余分な力が抜けていくのがわかった。 「お疲れ様です」 「まったくだ」 椅子に腰を落ち着ければ、疲れが一気に出て深い溜め息。それをダイニングキッチンから見ていた名前は苦笑いを浮かべる。 「風呂上がりにマッサージしましょうか?」 「頼む」 「畏まりました」 あとは鍋に火をかけてロールキャベツが暖まるのを待つだけらしく、すぐにキッチンから出てきた名前はエプロンを外し始める。 「名前」 こっちに来いと目で促せばエプロンを外し終わったあと従順に俺の傍にきたので、腰を抱き込むように両腕を回してこちらに引くと簡単に覆い被さるような形で俺の上に。 俺の顔の真上には名前の顔。 片腕はそのまま腰に。 もう片腕は名前の頭に。 そしてその腕をもっと引き寄せて、キス。 口内を荒らしてやると、恍惚とした表情を浮かべて鼻にかかったような声を度々名前が出すので、俺はそれを楽しんだ。 「今日の司郎様は本当にお疲れのようですね」 俺が十分楽しんでから解放してやると、名前はそれだけ言うと俺に寄りかかった。 「何でそう思うんだ」 「疲労困憊な時の司郎様はよくこういった過剰なスキンシップを強いりますので」 恥ずかしいのか少し声が小さくなる名前。 ──それにしてもこれをスキンシップと受け取っているとは、頭が痛くなる。 そんなに色恋沙汰に疎いわけでも鈍いわけでもないのに、何故俺からの好意には気付かないのか。 そんなことを考えながら自分とは違うさらさらの髪を撫でる。 俺と使用人と時々愛 好きでもない奴にこんなに俺が優しくするとでも思ってるのか? |