都会の大学に通っていた俺は、この冬休みを利用して帰省してこいという父上母上のお達しによって羽生蛇に帰ってきた。 久しぶりの羽生蛇はひどく懐かしく、心が落ち着いていくのがわかった。 都会の空気とは違って山やら森やらに囲まれている羽生蛇の空気は美味しい。 「帰ってきたのですね」 「お久しぶりです宮田さん」 体に羽生蛇の新鮮な酸素を取り入れようと深呼吸を繰り返していると、舗装されていない土剥き出しの道を踏みしめる音がしたと思えば宮田さんが声をかけてきた。 相変わらずの無表情になんだか安心した。 「なんです?」 どうやら顔に出ていたようで、宮田さんは少し不思議そうにしている。 「いや、宮田さんは変わらないなーと思って」 「それを言うならあなたについても同じことを言えますよ」 「そうですか?」 「ええ、後ろ姿だけでもすぐにわかりましたから」 そう言うと宮田さんはごく自然な動作で俺から鞄を奪うとすたすたと歩き出してしまったので、慌てて後を追った。 「荷物いいですよ、自分で持ちますし。宮田さんもお仕事があるでしょう?」 「俺がしたいだけなので気にしないでください」 宮田さんは俺の訴えを聞き入れてはくれず、真っ直ぐ前を見て歩くだけで。これは俺の意見を聞いてはくれないだろうと諦めて、お言葉に甘えさせていただくことにした。 「ありがとうございます」 「礼を言われる覚えはありません」 言葉は冷たいのに俺に向けた眼差しはとても温かいものだったので、息を飲む。 宮田さんはやっぱり俺の憧れの人だ。俺もこんなスマートで格好いい男の人になりたいな、なんて本人に言ったら馬鹿にされてしまうだろうか? 「名前さん」 「なんですか?」 「名前さんは羽生蛇が好きですか?」 今日の宮田さんは不思議なことを聞くな。 「好きか嫌いかと言えば、好きですよ。この村には沢山大切な人が住んでますから」 「それには俺は入っていますか?」 「…………と、言いますと?」 「その大切な人という括りに俺は入っているのかと聞いているんです」 きゅっと眉間に皺を寄せて、こんなこと言わせるなと言わんばかりに苛立だしげな表情を浮かべている。 なにこれ、宮田さんのデレですか、物凄く可愛いんですけど。 「勿論入ってますよ」 「そう、ですか…っ」 そしてさっきよりも足早になった宮田さんを見て、にやり。 宮田さんは俺の憧れ。 でもそれは今では過去系になる。 ──“憧れだった” 今ではまた別の感情が沸々と。 だってね、宮田さん。 耳が赤くなってるの丸見えですよ? 故郷 (あなたがこっちに帰ってくると小耳に挟んだだけで、別に迎えに来たわけではありませんから) (あなたにとっての大切な人になれているのが嬉しくて、顔が赤くなっているわけでもありません!) |