今晩家に来ませんか、と牧野さんからのお誘いに珍しいこともあるもんだと即座にイエスの返答をし、着いていった俺は今炬燵でぬくぬくしている真っ最中だ。 「蜜柑も用意してありますからね」 「準備がいいですね牧野さん」 蜜柑と聞いて上体を俊敏な動きで起こすのを見て、牧野さんはふふっと笑った。 「炬燵で蜜柑っていいですよね」 「牧野さんも好きですか、このセット!」 「ええ、とても」 これがないと冬は乗り切れないですよね、と熱く語る俺に相槌を打ってくれる牧野さんは本当に優しい人だ。 「でも牧野さんも炬燵仲間だったとはー」 「意外、でしたか?」 「少しだけ」 俺は寒がりだから学校に布団被って行くか毎朝真剣に悩んで遅刻しそうになって、結局物凄く厚いコートを着て風を通さないような素材の手袋にマフラーぐるぐる巻いて毎日を過ごしてるのに。 それに比べて夏も冬も同じような求道服を着て、あの冷房も暖房もついていないような教会にいるんだから、俺からしてみれば牧野さんは冬を難なく乗り越えているイメージがあった。 「炬燵は日本の心ですから」 胸の辺りに手をあてて伏し目がちに微笑む牧野さんはなんだか神秘的で。やっぱり求道師様だなーなんて当たり前なことを思いながら感動していたけれど、炬燵に入りながらだということに気付いて思い直す。こればっかりは炬燵が雰囲気をぶち壊してる。 「それにしても」 「?」 「宮田さんも同じこと言ってたなー。流石双子といったところですか」 にっこりと笑って言えば牧野さんはびしりと凍り付いた。フリーズ。 「牧野さん……?」 「何故宮田さんがその台詞を言ったことを名前さんが知っていらっしゃるのですか」 やや青ざめたような顔で尋ねられたので不思議に思いながらも答えた。 「この間宮田さんも炬燵を出したそうで、お邪魔したんですよ。その時に。……?牧野さん?」 牧野さんは暫く炬燵に潜り込んだきり出てこなかった。 炬燵+蜜柑=? (ああ、勇気を出して誘ったのに)(先を越されてしまっていただなんて) |