SIREN | ナノ


「あ、石田さんこんにちは」

「ああ、名前君こんにちは。どうしたの、学校は?」


平日だし、何か特別な行事があったわけでもないので今日は登校日のはずだ。
なのに名前君は制服を着て鞄を持ってこんな道端に立っているわけだ。しかも今は正午を過ぎ、短針は1を指しているような時間帯。もしかしてサボり?


「ちょっと体調悪くて遅刻したんです。でも提出物があったから、それを届けに」


その答えに納得し、一瞬サボりかと思ってしまったことを申し訳なく思った。俺じゃないんだからサボりのわけないか。


「そうなんだ。体調は大丈夫なの?」

「はい。宮田先生に診てもらったら風邪だろうって、薬もらってちゃんと飲みましたから」


大丈夫だとアピールするように軽く拳を握ってみせる名前君に疑いの眼差しを向ければ「なんですかその目は」とたじろいでいた。
以前そんなこと言って学校で倒れたことがあったのを俺は知っていた。情報は井戸端会議していたおばちゃん達。


「……よし、俺学校まで送っていってあげるよ」


俺と別れた後に倒れたりでもしたら困る。というか想像してみて容易に出来ちゃう感じが怖いよ、名前君。


「え?!い、いいですよ、一人で学校行けますから!」


慌てて両手を振る名前君の顔が赤くなったと思えばみるみるうちに蒼白になり、そんなに嫌なのかと悲しくなった。確かに小さい子でもないのに大人と一緒に学校へ行くのは恥ずかしいんだろう。その気持ちはわからなくもないけど……。


「そうは言っても名前君のこと心配だし……パトロールついでに、ね?」

「それはありがたいですけど、いいんですか?また怒られちゃうかもしれませんよ」


それでもいいんですか、と訊ねる名前君に自然と笑みが零れた。俺の心配してくれる人なんて名前君ぐらいしかいないよ!いや、宮田先生と上司からは酒を控えろって耳にたこが出来るぐらい言われてるけど、あれは役職上での心配だからカウントされない。


「いいの、いいの。村民を守るのが俺の役目だから問題なし」

「俺は知りませんからね」


ぷいっとそっぽを向いて早足で歩き出した名前君にワンテンポ遅れてからついていく俺の口元はだらしなく緩み、気の抜けた笑い声が漏れた。




堂々、遅刻




(名前君!風邪なんだってね、大丈夫?)
(…………平気)
(ふふっ、さっき石田さんと学校来てたでしょっ)
(っげほ、げほっ、…は、はあ?!な、なんでそれをっ)
(校門で分かれたの見えたんだよねえ〜、ふひひひご馳走様です)
(変なこというな、馬鹿女(これだから石田さんと登校したくなかったんだよ…))