この村一のモテ男、織人が目に入った俺は声をかけた。 「おーい、織人ー」 こっちに振り返ったこいつはいつも通りの声色で言う。 「石田さん」 織人のところまで駆け寄り隣に並んで歩く。 「今日は学校で食べないのか?」 「はい。今日は早帰りの日なので給食が出ないんですよ」 「なるほど」 「石田さんはサボりですか?」 「ちがう!!昼飯休憩!!」 俺が声を荒げて言うと織人は笑った。 織人がモテる一番の理由として挙がるのが、笑顔だ。 男の俺からしてもかっこいいと思う顔立ちで、目尻を下げてくすくす笑う姿はまるで男なのに生娘のようで可愛い。これは一種のギャップではないだろうかと俺は思う。 そんな織人は宮田先生や牧野さんと仲がいい。 だからなかなか話すチャンスが周りに回ってこない。だから特に用がないのに診察を頼んだりしている。まあ、折部分校の人は別だけど。 でも俺は交番勤務だからまだ話す機会がある。歳も近いし。 織人と話せることさえも羨ましいと言う口にする人さえいるくらいだ。 「石田さんは昼食、また羽生蛇蕎麦ですか?」 「そのつもり。織人は?」 「俺もたまには蕎麦にしようかと」 それなら、と俺は織人の手を取る。 「一緒にお昼食べるか!」 ――俺はそんな奴らと違って織人の手に手を重ねることを許される。 ――その事実に僅かばかりの優越感を抱いた。 |