Fact | ナノ




私は密かに気になっている人がいる。所謂、想い人。


「おはようございます、牧野さん」

「おはようございます、織人さん」


散歩をしていると前方からその想い人が歩いてきたので心拍数は上昇。


「お散歩ですか?」


ふにゃりとした柔らかく温かい微笑みに私の心も溶かされていく。


「ええ。織人さんは?」

「俺は今日は予約が入っていたので往診です」


臨床心理士の資格を有している織人さんは普段は折部分校でスクールカウンセラーとして働いている方ですが、お年寄りが多い羽生蛇村では予約さえしてくれれば往診までしてくれる優秀なカウンセラー様です。


「そうなのですか」

「そういえば最近牧野さん予約してくださりませんよね、なにかあったんですか?」


こてんと首を傾げる織人に頬が熱くなる。そういった可愛らしい行動をするのはやめていただきたいです、どうしていいのかわからなくなってしまいます。
それに予約を入れないのは……あっ、貴方と二人きりになるのが恥ずかしいからでして…!!


「いやすみません、困らせるつもりはなかったんです。悩みなんてないのが一番ですしね」


そう言ってまた笑う貴方にまた胸が苦しくなる。



貴方が好きなのがつらいのですがどうしたらいいですか?



そんなことを私が言えるわけもなく眉を下げるしかできない私は本当に惨めな男だ。