Fact | ナノ



「今日も来てしまいました」


いつもより聊か遅い時間に登場した織人。
へらへらしながら靴を脱いでうちにあがりこむ。


「今日は忙しいんだ」


患者がいつもより多かった所為で仕事を持ち帰ってきた日に限って何故来たんだ。
頭が痛くなる。


「すみません」


へにゃっと笑ってからそのまま俺に向かってなだれ込んだものだから、俺も驚いた。それは自分でも驚くほどに俺は今動揺している。


「どうした」


俺の胸に倒れこむこいつを咄嗟に抱きとめたはいいが、体調でも悪いのだろうか。


「宮田さん」


シャツを弱弱しくも握るこいつは本当にどうかしてる。
――いつもの能天気さはどうしたんだ。具合が悪いなら近づくな、風邪だったら移る。
普段ならすぐに口をついて出る皮肉もこのときばかりは出なかった。


「少しの間でいいんです。このままで……」


そして俺に縋るように一層胸に顔を寄せるこいつを、不覚にも可愛いだなんて、愛しいだなんて思ってしまった俺もまた、どうかしてる。



それから俺は織人の背に両腕を回し、そっと抱きしめた。







どうかこいつが明日になったら笑顔を見せてくれるように、と。