Fact | ナノ



最近元気がないように見えますが、大丈夫ですか。放課後職員室で書類を纏めていると高遠先生に声を掛けられた。
自分では特に自覚していなかったので否定すると、高遠先生は目の下をなぞりながら心配そうに言った。


「嘘吐かないでください。目の下、隈になってますよ」

「あー。そういえば最近寝つきがあまりよくなかったような」


高遠先生に指摘され、初めて気付いた。
夜寝ていても、眠りが浅いのか何度も目を覚ましていた事を思い出す。
原因には心当たりがある。先日春海ちゃんから聞いた牧野さんのことだ。嫌でも牧野さんのことが頭から離れなくなってしまっている。特に告白されたわけでもないのに、俺から何か牧野さんにその件について切り出すのは不自然だ。切り出すにしても、俺は宮田さんのことが好きだから牧野さんを“振る”ということになるわけだが……。告白をしていないのに振られるなんて意味がわからないのもいいところだろう。それこそ春海ちゃんの聞き間違いということも無きにしも非ず、だし。



「織人先生、本当に大丈夫ですか?」

「え?…あっ、ああ。大丈夫ですよ」

「今日はもう帰った方が」

「そうします。もうすぐこれも終わりそうですし」


俺がまた牧野さんのことで頭を悩ませていると、先程よりも心配そうな顔をした高遠先生が。何が大丈夫なんだと自分でも言った後に思い、自嘲の笑いが漏れた。
後は一言二言記入して校長先生に提出するだけの書類を指で叩くと、高遠先生は「それならいいんですが」とそれでも心配そうな視線を送ってきたので、これ以上心配を掛けさせるわけにもいかないと、早々に仕事を終わらせて帰宅することを決意した。