今日は待ちに待ったノボリさんとの飲み会です!
仕事も通常通りに終わらせて、ギアステーションの裏で待ち合わせ。本当はブラックシティで飲もうかと言う話も出たんですが、仕事終えてからわざわざそこまで行くのは億劫だと意見が一致したのでライモンで。
選手達が試合後に打ち上げをすることが多いのでライモンシティでは居酒屋さんをあちらこちらに見かける。ヒウンシティにも多いみたい。会社帰りのサラリーマン用に。ブラックシティは高級感漂う店内で美味しいワインを戴けるところが多くて、俺は自分へのご褒美として飲みに行ったりしている。


「お待たせいたしました」


ノボリさんより一足先にあがっていた俺は首に巻いたマフラーに顔を埋めて足元を見て待っていた。それからまもなくしてノボリさんも高級そうなコートに身を包み登場。俺なんかが着たら、それこそ、コートに着られてしまいそうだ。それでもさらっと着こなしているノボリさんはクールで、男の俺でさえも見惚れてしまうくらいで。


「そんなに待ってないので大丈夫です、行きましょう」


じろじろと見るのは失礼だろうと思い、袖の端を引っ張って先を促した。……今はまだなんだか恥ずかしくて顔は見られないけど。







「本当にこんなところでよろしかったのですか……?」

「俺は全然。ノボリさんこそどこにでもあるような居酒屋でよかったんですか」


全国に店舗展開をしているなかなか有名な居酒屋のテーブル席に案内された俺とノボリさん。店側に聞かれたら申し訳ないとお互いに小声になりつつ話す。
ノボリさんが居酒屋って想像つかないからなんだか不思議だな…。俺のノボリさんのイメージだとこんな安い店でおつまみ食べながらわいわいやるイメージってあんまりない。もっと、こう…高級感あふれる…夜景のきれいなレストランで、ワインとかシャンパンを傾けてるような…。


「わたくしのことはお気になさらず。いつものことですので」

「へ?」

「よくこの系列のお店に来るんです」

「そうなんですか」


常連だったなんて…い、意外だな…。


「ここの鍋、美味しいんですよ。確かアキラ、鍋好きでしたよね?」

「はい好きです!」


ならばとノボリさんはテーブルの上のメニュー表を手に取り、慣れた手つきでページを捲り鍋ページを開いた。


「ここの鍋は二人前なのですが、アキラはその、ひ、ひとつの鍋を…」


なんとなくノボリさんが言おうとしていることはわかった。確かにこういうの気にする人っているしな。
でも俺は、


「俺は平気ですよ」


そんなの気にしないし。

そう言うとほっとした表情を浮かべたノボリさんについ手を伸ばしてしまった。でも俺は無意識で向かい側のノボリさんの頭を撫でてしまっていて。ノボリさんも吃驚していたけれど、俺自身も一瞬状況が把握できなくて唖然としてしまった。


「す、すみません!」

「お、お気になさらず!」


ノボリさんの頭の上に置いていた手を慌てて引っ込めて、互いに顔を逸らす。
でも視線だけ恐る恐るノボリさんに向けてみたらちらりと見えた耳が真っ赤で。

うわあ…どうしよう、怒ってるんだよね、これ。どうしよう。まだ店入ったばっかりだっていうのに。



「お客様、ご注文お決まりでしょうか」


その声に体はびくりと跳ねた。
居酒屋の店員は営業スマイルで伝票片手に立っていたけれど俺には店員の(早く注文しろよ)という裏の声が聞こえた。それはノボリさんも同じだったようで、二人してメニューに噛り付いた。
結果として鶏塩ちゃんこ鍋とそのしめのうどん、唐揚げ、それからお酒。ノボリさんは生ビールを頼み、俺はハイボールを頼んだ。

店員が俺達の注文を復唱して厨房に向かっていったのを見届けた後、俺とノボリさんは顔を見合わせる。それから数秒後、笑った。


「吃驚しましたね」

「ええ、あのタイミングで来るとは思いませんでしたよ」

「はい。しかもまだ俺達何も決めてなかったですし」

「どうしようかと思いました」


さっきの気まずさは消え去り、会話は盛り上がった。
仕事が終わったのが遅かったからかもう店内には何人もデキあがっている人がいて、その場の熱気や雰囲気にテンションが上がっていた。

それから料理が運ばれてきて俺とノボリさんはグラスを傾けて乾杯。酒で喉を一気に潤したらノボリさんに「良い飲みっぷりですね」なんて感心されてしまった。


「ふおぉ!このちゃんこ美味しいですね!!特に鶏肉が軟らかくって」

「そうでしょう。わたくしのおすすめでございます」

「もしかしてノボリさんも鍋好きだったりしますか?」

「実は」


ビール片手におどけて見せるノボリさんは勤務中には絶対に見られないだろう。貴重だ。


「なら今度俺のお勧めの鍋屋さんがあるんで一緒に行きませんか?」

「ぜひご一緒したいです」

「ぼくも行きたいな」




「「…………」」





「何故いるんですか、クダリ」

「んー?アキラがいるから?」

「俺に聞かないで下さいよ」

「本当にクダリ…あなたという人は」


俺もノボリさんも一気に酔いが醒めた。それはもうしゃっきりと。
ノボリさんはテーブルに肘をついて頭を抱えた。ついでに言うと当人のクダリさんはニコニコと梅酒サワーを片手に俺の隣に座っている。本当にいつの間にいたんですか。


「どうしてここにいることがわかったんですか」


俺もノボリさんも今日のことは誰にも言わなかったはずなのに。…誰かに言ったりしたらクダリさんの耳に入って一緒に来るといって駄々を捏ねるのは間違いなかったから、俺とノボリさんだけの秘密にしようと言っていたのに。何故ばれた。


「知りたい?」

「とても」


それはね、と言ってからクダリさんは手にしていた梅酒サワーを一口含み勿体つけてから言った。


「アキラへの愛、かな」






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