「クダリさん」

「んー?」


にこにこと上機嫌なクダリさんは俺の腕に抱きつくような形でいること数分。それでも一向に離れるような素振りを見せないクダリさんを見ていて思った疑問を投げかけてみることにしました。


「クダリさんは俺のことが好きって言いますけど、俺のどこがそんなにいいんですか?」


若干呆れの色も言葉に混ざってしまいましたがクダリさんは気にしていないようで、声に出して笑ってからこてんと肩に頭を乗せた。


「改めて聞かれるとなんだか恥ずかしい。……うまく言えないけどアキラを初めて見た時からずっと気になってた」

「入社式の時からってことですか?」

「ううん。ぼくもっと前からアキラのこと知ってたよ」

「えっ」


驚いた。俺はいつどこでクダリさんと会ったことがあったんだろう。記憶の引き出しをひっくり返して想起しようとするけれど、思い当たる記憶が見つからない。


「アキラがお客さんでサブウェイ使ってる時から知ってる」


そう言うクダリさんの声色はどこか寂しげで。視線をクダリさんに移したが俯き気味の彼の白い帽子の鍔が俺の邪魔をしました。


「アキラを見かける度ついつい目で追っちゃってね。ノボリには仕事サボってると思われてよく怒られた」


でもやっぱりクダリさんの纏う空気は悲しくなるもので、弱弱しく見えた。普段は俺達職員の疲れを吹き飛ばしてくれる笑顔と元気を振りまき、バトルで見せる地下で繰り広げられる熱いバトルの頂点に君臨する王者の風格。そんな面影は今のクダリさんにはなかった。


「で、アキラが入社してきた時。ぼくは運命だって思った。アキラのことが好きなんだってわかった」

「クダリさん…」


俺が名前を呼ぶとクダリさんは顔を上げ、俺に真っ直ぐな視線を向けた。
それがあまりにも真剣な様子でしたので息を呑みました。
どうも俺はクダリさんのこの視線に弱いらしいです。


「アキラからしたらぼくなんてただの上司に過ぎないと思う」





「それでもあいしてる」






「あいしてるんだ、アキラ」




「アキラがぼくのこと好きになってくれるまで離さないから」




その言葉はまるで首輪みたいに俺の首にしっかりと巻きついたような錯覚を起こさせた。

――ああ、きっと俺はこの人から逃げられないんだろうな。

ぼんやりと考えていた俺の唇はそれからすぐに目の前の人物に塞がれた。



それでも嫌だなんて思わなかった俺がクダリさんに落ちるのは時間の問題かもしれない。


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