バトルサブウェイが到着し、お客さんが下車していくのを見送っているとお昼休憩に出ていた先輩が帰ってきて、俺に交代を言い渡した。
「もうこんな時間ですか」
腕時計に目をやると12時と半分を指し示していた。それから先輩に声をかけて昼食を入手するべく(弁当を作っている暇がないのでいつもお昼は買っているんです)コンビニに向かっっていると。
「お疲れさまアキラ!ねえお昼休み入った、ねえ?」
どこから現れたのかクダリさんが後ろから抱き着いてきました。
はい、と肯定をこめて頷くと嬉しそうに俺の腕を取り、身を寄せ、言いました。
「じゃあ今日のお昼はぼくと一緒に食べよ」
駅員室に着くとクダリさんは、じゃーんと効果音をつけて俺の前にひとつの箱を置きました。
ん?これって…。
「ぼくアキラのためにお弁当作ってきた」
「わあ、ありがとうございます」
これは素直に嬉しい。
現在彼女もいない俺は毎日コンビニ弁当やら出来合いのものを食べていたんで、手作りのものを口にするのは久しぶりなのです。
「でも突然どうしたんです?」
「前にアキラが料理できる人が好きって言ってたから、ぼく頑張った」
そういうことをさらっと笑顔で言われると俺も…と、ときめいてしまうわけで…。
頬に熱が集まるのを感じているとクダリさんは少し緊張した面持ちでお弁当を俺の方に更にずいっと差し出した。
「早く食べてみて」
いただきますと言ってからお箸を持ち、最初に目に留まった卵焼きを口に運んだ。
「………」
「どう?」
……正直に言うと甘すぎる。それこそ砂糖を吐きそうなくらい。俺も甘い物は嫌いじゃなくって、寧ろ好きです。が、限度があると思うんですよ。確かに卵焼きって人によって味付けが違います。それにしてもこれの卵焼きは甘すぎると思うんです。砂糖で出来た黄色い物体と言っても過言じゃないくらい。
でも、このクダリさんの期待した顔。爛爛とした眼を見ると正直に言えないわけです。クダリさんのことを考えたら言うほうが良いってこともわかるんですが。期待を裏切れない、と言いますか…。
結果、俺はクダリさんにこう言ってしまうのです。
「おいしいですよ」
「本当?よかった」
クダリさんは花が咲いたようにぱっと笑い、他のものも進めてきました。
皆さんももうすでに予想がついたかもしれませんが、……他の食べ物もすべてが甘かったです。砂糖でした。
クダリさんが甘い物が好きなことは知っていましたがここまでとは。
俺はと言うと胸焼け覚悟で完食しましたよ、ええ。
食べ終わる頃には涙が零れそうになりましたが耐えました。
その後昼休みも終わりクダリさんと分かれ(その時クダリさんは上機嫌でした)、持ち場に戻った俺は会った人全員に「顔が真っ青だ」と心配されました。
暫くしてからノボリさんまで来た。
「クダリから話を聞きました。大変申し訳ありません」
「だ、大丈夫ですよ。それにノボリさんが気にすることじゃあありません」
90度に腰を折って勢いよく頭を下げるノボリさんに驚きつつ、頭を上げてもらう俺。
「いえ、わたくしの管理責任でございます。クダリは全くといって言いほど料理が出来ないのです。見た目はおかしくないのですが味付けとして練乳やら砂糖やら、甘い物を片っ端から使うのです。なので普段からキッチンには出入りさせていないのですが、今日は私が早めに出勤したのでその隙に。」
そう本当に申し訳なさそうに言うノボリさんがなんだか珍しくて、不謹慎にも俺は少し笑ってしまいました。
「大丈夫です。確かにクダリさんの料理は甘くて正直食べるのが辛かったです。でもクダリさんが一生懸命お弁当を作ってくれたことは本当に俺は嬉しかったんですよ。だから俺は進んで食べた。それだけのことですから」
するとノボリさんは呆気に取られたように口を薄く開けていました。
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