俺はただいま休憩室で息抜き中。ちなみにソファの上です。
「アキラー」
クダリさんの爆弾発言から一ヶ月が経ち、あれからクダリさんは俺へのスキンシップがあからさまに、エスカレートしました。
今も俺の首に腕を回してべたべたしてきています。
「重いですクダリさん」
「ええー」
「休憩時間なのに休憩できません」
でも俺自身もクダリさんのスキンシップにも慣れてしまったのでそんなに苦ではない。
ノボリさんにもクダリさんの扱いがうまくなったと言われたくらいです。
喜んでいいのか、悲しんでいいのか…。
「アキラ、クダリさんお疲れ様です」
「お疲れ様です」
「おつかれ」
そして最近知ったんですが俺とクダリさんのこの絡みがバトルサブウェイでの名物になっているらしいんです。
クダリさんと違って俺は一般駅員だから週2で休みがあるんだけど、オフに買い物とか行ってもよく知らない人からそのことについて聞かれたりする。
まあ名物になるくらいなので職場の皆にとっては俺とクダリさんが一緒にいて、且つ、べたべたされていてもいつもの光景だと受け流すくらいのスキルを手に入れたみたいで、誰も以前よりも俺をクダリさんから助けてくれる人は減ってしまいました。残念です。
クダリさんを気にしないようにして、駅の自販機で買ってきたサイコソーダをごくごく飲んでいると声をかけてきた。
「ねえねえ」
「なんですか」
「アキラは誰のことが好きなの?」
「はい?」
またこの人は突拍子もない…。
ため息を吐きそうなったが一応上司になので寸でのところで飲み込んでおく。
それにしても俺もクダリさんの扱い、酷くなったなあ。でもこんな毎日が続けば仕方ない、かな。
「ぼくはアキラのことが好きだよ」
「そうですか」
この人はすぐに好きだ好きだって言うけれど、どれも本気なんだろうことが俺もなんとなくわかっているから“好き”の安売りなんかじゃないってわかっているんだけど。会うたび言われていると耐性がつくわけで、正直なんとも思わないのです。
「だからぼく、アキラのこともっと知りたい」
「そうですか」
俺が投げやりに返事をしているとクダリさんは面白くないと言った風にほっぺを膨らませた。
そんな様子が可愛いなんて思っているわけは、ない、はず。
「……アキラ聞いてる?」
「き、聞いてますよ」
するりと俺の顔をクダリさんに撫でると体が震えた。クダリさんの顔が直視できない。
「もうぼくのこと好きになっちゃいなよ」
「…………はい?」
「さっさとぼくのものになっちゃいなよ」
もうため息を我慢できなかった。同僚もいるこの休憩室でも平気でこういったことを言うのはさすがにどうかと思うんですよ。いや、皆がいなかったらいいっていうわけでもないですけど。
「そのうちに、ですよ」
「そのうちっていつさ」
俺のはぐらかすような言葉にも負けじと食い下がるクダリさん。
「それはわかりません」
そう言うとまた言い返してくるクダリさん。いかにして黙らせようかと考えていると俺達以外の職員達は仕事に戻っていった。
俺ももうすぐ休憩時間終わりなんですけど。このままでは仕事に戻れなくて皆に迷惑が掛かってしまいます。クダリさんが横でまだ何か言っていましたが俺は普段付き合っている女の子にやる手を使うことにしました。まあこの場合その応用ですが。
クダリさんを巧いことソファに押し倒して、顔を近くに持っていき普段より低めに、吐息たっぷりに囁くように話す。
「そんなに言うなら俺がクダリさんのこと好きになるように頑張ってくださいよ」
やる気に満ちたクダリさんの目を見て後悔した。ん…?もしかして俺、やらかした?
「絶対ノボリじゃなくてぼくのこと好きにして見せるからねっ!」
なんでそこでノボリさんなんですか。憧れとしては好きですが、クダリさんのような恋愛対象としては見てませんよ。
そうクダリさんに告げようとしたけど「ちゃんとお仕事してくるからあとで褒めてね」という言葉を残して嵐のように立ち去ってしまいました。
ごめんなさいノボリさん、面倒ごとに巻き込んじゃってるかもしれません…。
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