仕事も終わり、カナワに向かう電車に乗り込んで社員寮と言う名の我が家に帰宅しようとしていたら、乗り込んだ車両にクダリさんがいました。
クダリさんはふにゃっと笑って俺の名を呼んだ。
「アキラ」
こっちにおいでと手招きをするので素直にクダリさんの横に腰を下ろすと、俺をじろじろと見てきた。
帰りなので俺は私服なんだけどクダリさんはお馴染みのサブウェイマスターの制服。まあカナワの寮まで制服のまま帰っている人もいるけど、圧倒的に私服の人が多い。だからそんな物珍しい物じゃないと思うんだけどなあ。
「クダリさん?」
「私服もいいね」
クダリさんがそんなこと言うから俺は唖然としてしまった。
そんなこと言われるなんて思ってなかった。
俺が予想してた台詞は「疲れた顔してる」とか「ごみついてる」とか「変な服だね」とかそんな感じだったから。呆気に取られている俺を余所に続けて言うクダリさん。
「勿論制服の時もいいけど、私服もいい。もっとアキラの色んな姿見たいな」
目を細めて挑発的に笑うクダリさんは男の俺から見てもすっごい色気で。しかもさり気なく手まで握られていて…。
あ、あれ?これってもしかしてクダリさんに迫られてる?え、そんな、まさか…ねえ…?
そういえば皆に気をつけろって言われてたな。でもさ、そんなわけないって俺は思ってて…。だって俺男だし!クダリさんだって男だし!
若干パニックになっている俺に構わずどんどんクダリさんの顔が近づいてきて。
もうすぐ唇同士が重なるというところまできて俺はぎゅっと目を瞑った。
その時。
「クダリ何してるんですか!」
普段よりもきつい口調のノボリさんが大股でこちらに来てクダリさんの首根っこを掴み俺から離してくれました。
ほっと安堵の息を吐く俺。
「アキラ、大丈夫でしたか?」
「は、はい」
本当に助かった…。
あれ?そういえばノボリさんって俺のこと呼び捨てにしてたっけ。
俺が素朴な疑問について考えている間にノボリさんとクダリさんは軽い言い合いをしていて。
「邪魔しないでよノボリ」
「邪魔などではありません、アキラが嫌がっていたではありませんか」
「そんなことないよ。ね?」
「そう言われましても…」
いきなり自分に話を振られて驚き、困ったように愛想笑いを浮かべているとノボリさんが俺の様子を見て更にクダリさんに追い討ちをかける。
「ほら御覧なさい、困っているではありませんか」
「でもアキラはぼくの運命の人!始めてあった時からずっとアキラのことが好きだった。アキラもそうでしょ?」
いきなりの爆弾投下。クダリさん、冗談ですよね?と言おうとクダリさんの目を見ると至極まじめな光を湛えていて。思わず言葉を引っ込める。
「え、えっと…俺は」
急にそんなこと言われても困るって言うか、そんな風にクダリさんを俺は見たことがなかったから。
でも、今は…
「ノボリさんに運命を感じます」
毎回ナイスタイミングで助けてくれるところ、とかに。
するとクダリさんはノボリさんを睨み付け、ノボリさんは顔に片手を添えた。
(何ノボリ照れてるの。ノボリだけには負けたくない)(アキラの運命、の人…ですか…)
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