じゃあ僕が実際体験した話するね。
ノボリはこういう話大好きなんだけど視えなくて、僕はそうでもないんだけど視えるの。
まあ僕としてはたいした事じゃないから、正直どうでもいいんだけどノボリはいつもいいなって言うんだ。でもいい事ばっかりじゃないと思うんだけど…。
「スーツの男」
幼い頃から他の人には視えない物が見えてた僕が一人で遊んでた時。
ずっと視線は感じてて、チラッと見てみたら真っ黒いスーツを着た顔が青ざめた人がちょっと遠くから僕の事を見てた。
直感的に「ああ、この世界の人じゃないんだな」ってわかってあんまり視線を合わせないようにして、気づいてないふりをした。視えてるのがばれちゃうと憑いてきちゃう場合があるから。
だから僕は一人でそのままずっと遊んでた。
けど、段々近づいてくるから僕もまずいかなって思って遊んでた物とか片付け始めたりしたら、向こうも気付いたのかさっきの倍くらいの速さで近づいてさ。
あっという間に僕の3m以内くらいまで来て。
僕はでんこうせっかみたいに今までにないくらいの速さで走った。
家がもう見えてきたくらいになって振り返ったらもうスーツの人はいなくって。
ぜえぜえ息を切らして道の真ん中で座り込みそうになったけど、今は早く家に帰って冷たい麦茶が飲みたいって思って覚束ない足取りで家に向かった。
「ただいま、ノボリ」
「おかえりなさいまし」
疲労で玄関に突っ伏してると、家の中からとてとて歩く音がしてノボリー、麦茶ーって言おうと顔を上げたそのとき。
「早かったですね、何かあったのですか?」
僕の全身に冷水を浴びせかけられたかのように凍え上がった。
「……クダリ?」
僕の目の前には心配そうなノボリの顔。そして。
「「やっぱりみえてたんだね」」
あのスーツの男がにやりと嗤って立っていた。
後日談だけど、あの後僕は気を失って、起きたときには次の日の朝になってた。
ノボリと親は僕のことをすごく心配してて、なんだか申し訳なくなった。
あれからあのスーツの男をみてない。
でも家の中の空気が嫌なときがたまにある。
だからまだ、僕についてきてそのまま家の中にいるんじゃないかな。
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あとがき。
友人Rの実体験をベースに書きました。ベースというか途中までそのまんまなんですけどね←
さすがに家までついてきてはないです(笑)
次はこの話の対のノボリの話を書けたらなあ、と。