マツバと別れてから自然公園に向かったアズサ。
ドンカラスとウインディの毛並みを整えてやっていると足元に一匹のペルシアン。

「にゃーん」

ペルシアンは私の足に身体を擦り付けて甘えた声で鳴いた。
その様子にウインディは機嫌を損ねたようでぎらりと目を光らせたので、呆れたようにドンカラスは息を深く吐いて自分の羽毛に顔を埋めた。

「どうしたの?あなたのトレーナー、探してると思うわよ」

首には可愛らしいリボンを巻いており、すぐに誰かのポケモンであることがわかった。
辺りを見渡してみるけれどそれらしい人間はおらず、もしこの子のトレーナーが夜まで現れなかったら、ロケット団の役に立ってもらうのもいいかもしれないなんてことを考える私。
我ながら悪役らしい考えだ。でも夜まで待つなんて生易しいことを同時に考えてしまっている私はやっぱり悪役にはなりきれないのかもしれない。

「ペルシアン、か……」

いや、やっぱりこの子がペルシアンだから余計なのかもしれない。

ペルシアンを見るとあの人を思いだし、まるで連鎖するかのようにあの頃を思い出す。私達がまだ下っ端だったあの頃を。



同期のランスと私は毎日任務に明け暮れ、疲れきった身体を引きずって自室に戻り、寝る。
任務と休息を只管繰り返す毎日。
でも私はこの生活が一度も嫌だなんて感じたことはない。

「アズサ」
「何ですか?」
「私はサカキ様を尊敬しています」
「知っています」
「いいえ、アズサは知らないはずです」
「?」
「私はサカキ様にいのちを救われたのです」
「それって、まるで――」







「サカキ様……」

ペルシアンの喉を擽ってやっているとぽろりと我らがボスの名前が口から溢れた。

「どこにいらっしゃるのですか……」

ウインディは私の頬をべろりと舐めて慰めてくれ、ドンカラスはそっと私に寄り添った。
その優しさに思わず視界がじわりと滲む。
あと一歩で私の視界を滲ませている原因の液体が零れ落ちそうなったとき、女の人の声が聴こえてきたのでそれは引っ込んだ。



「ペルシアンちゃんどこー!?どこにいるのペルシアンちゃーん!!」
「あのー……」
「ああ、ペルシアンちゃんそんなところにいたの!勝手に居なくなったら駄目でしょう」

私なんて眼中にない様子の女性を見て、いたたまれなくなったのでそっと立ち去ることに。
ウインディをボールに戻してドンカラスに乗せてもらい、上空へ羽ばたき始めた時。

「ペルシアンちゃんのこと、ありがとうございました」

女性はそう言って頭を下げ、ペルシアンも尻尾をゆらゆらと揺らしていて別れを言っているようだった。

この光景を見られたことをよかったなと思っている自分に対して笑いが込み上げてくる。


やっぱり私は悪にはなりきれない。

……けれどそれでもいいかもしれない。



「大切にしてあげてくださいね」


突然その子の前から消えてしまったりしないで下さいね。





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