とある昼下がり。
僕は職員室の前で襟を正して気合いを入れていた。
頭の中で何度もシュミレーションしたからきっと大丈夫。

ノックをしてから失礼しますと言ってから入室。
冷房をがんがんにいれていたらしい職員室は涼しく、て僕の頭をすっと冷やしていった。

それから僕は迷うことなく真っ直ぐアポロ先生のもと向かう。


「アポロ先生、お時間少しよろしいですか?」

「ああダイゴ君じゃないか、どうしたんです」


にっこりと柔和な笑みを浮かべるアポロ先生。以前ならば好感を抱いていただろうその笑顔にも、今は薄ら寒いものしか感じなかった。


「授業でわからないところでもありましたか?」

「いえ、そういったことじゃないんです」


それにここではちょっと、と含ませて言えば椅子から腰を上げて、ついてきて下さいと言った。






それからアポロ先生は僕を生徒指導室に招き入れた。用心深く鍵までかけて。


「それで、ダイゴ君は私に何の用でしょう」


簡素な部屋の中にあるパイプ椅子に腰を下ろし足を組んだアポロ先生。男の僕から見ても格好良く、絵になった。


「率直に言います」

「どうぞ」


促すように言うアポロ先生が憎らしくて堪らない。アズサちゃんを幸せにしてくれればいいと思い、願ったのが嘘かのようだ。


「僕はアズサちゃんが好きです」


笑顔のままぴしりと固まったアポロ先生は何だか笑えた。嗚呼。僕は自分が思っているよりも性格が悪いのかもしれない。


「先生とアズサちゃんがそういった関係だと云うことは、先日目撃した現場で理解しました」

「見られていましたか」

「はい」


額に手をやり前髪をぐしゃりと握ったアポロ先生は苦い顔をしていた。


「でも僕はこの事を誰かに言ったりするつもりはありません」


あの時散々迷った。
アズサちゃんのことを諦めるか。

でも僕は今ならしっかり言える。


「ですがアズサちゃんを諦めるつもりもありません」


好きな事、物には執着心が強いのが僕。
今までだって石には執念を燃やしていた。

ミクリに言われて気づいたんだ。
どうするんだと聞かれた時に僕は、絶対諦めてやるもんかって思った。強く、強く。
これはただの僕の意地かもしれない。でもアズサちゃんを幸せにしたいって、笑った顔を僕に向けてほしい。アポロ先生じゃなくて僕と一緒にいてほしい。

僕は執念深い。
だから自分のものにしたいなら、どんな手を使っても手に入れる。それがどんなに稀少な可能性であったとしても。


「これは宣戦布告として受け取っても宜しいのでしょうか」

「はい、そのつもりなので」


アポロ先生に嘲笑されようが構わない。


「わかりました。…出来るものならやってみなさい」

「そんな余裕で居られるのも今のうちですよ」


だって僕はアズサちゃんが好きなんだから!








Fin...?





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