ノボリとクダリを置いて先に風呂から上がった俺は首からタオルを下げ、ぽかぽかしていい気分で部屋に向かおうと暖簾を潜って旅館の廊下へ。
するとタイミング良く女湯の暖簾を潜り出てきたのはカミツレで、俺と同じく首からタオルを下げていた。
「あら」
「よっ」
すぐにカミツレも俺の存在に気付き、僅かに肩を竦める。
それから俺達は横に並びに歩き始めた。
会話は至極くだらないことばっか。
俺の兄ちゃんは元気かとかまだ海外旅行から親は帰って来ないのか、とか。
あとはさっきのカミツレの行動について俺が怒ったり。
あの後俺は同級生にもみくちゃにされた。何人かの女子はカミツレに聞いてたみたいだけど。
でもまあお互いただの幼なじみだって答えた。実際そうだし。
「そういえば私、この間スカウトされたのよ」
「何に?」
「モデル」
「……まじで?」
「まじで」
思わず足を止める俺に倣ってカミツレも足を止めた。
確かにカミツレはスタイルいいし、モデル体型だ。でもまさか本当にスカウトされるだなんて…。
「それでやるのか?モデル」
「そうね…まだ少し迷いはあるけど、やろうと思ってるわ」
カミツレの奇麗なライトブルーの瞳は決して揺らぐことのないような意志が宿っていて……それが真っ直ぐな性格のカミツレらしくて笑いが漏れた。
「カミツレならなれるよ、立派なモデルに」
「そうかしら」
俺に釣られてくすりと小さく笑ったカミツレはやっぱり奇麗で。普段あまり笑わないカミツレの笑顔は今まで俺だけに向けられてたけど、これからはこの笑顔が雑誌に乗って勇気や元気を貰って救われる人がたくさん増えるんだろうなと思った。
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