* 麻痺 | |
あれからどれくらい経っただろうか。 大分経った気がするし、少しだったような気もする。 相変わらずの現状に私は慣れてきてしまった。本当はこんなことに慣れてしまいたくなんてない。 あのバトル以降私のパートナーの皆に会うことすら許されていないけど元気にしているかな。 何だかんだ言ってもクダリさんはポケモン達に優しいのは知っているから、私はこんなにも呑気でいられるんだろう。 「お帰りなさい」 「うん、ただいま」 今日の勤めを終えて帰ってきたクダリさん。 今朝より機嫌が良いように思える。きっと強いトレーナーさんと戦えたのだろう。バトル狂な彼のことだ。いい笑顔でバトルを楽しんだのだろう。 「ぼくお風呂入ってくるから」 「わかった」 クダリさんが差し出してきた鞄を受け取りリビングへ。 この光景だけを見ていれば新婚さんにも見えただろうが、生憎そんなに甘ったるい関係ではない。 クダリさんがお風呂に入ってから暫くして彼の仕事鞄から機械音が静かなリビングに鳴り響いた。 慌てて脱衣所へ走り、クダリさんに報告。 無断でライブキャスターに出たりしたら私はどうなるんだろうか。クダリさんも今は風呂に入っていて絶好のチャンス。 このまま助けを呼ぶことも可能だ、という考えが脳裏に浮かぶがあの時の恐怖がその考えを打ち消す。 確かにチャンスではあるがバレたら私はどうなるのだろうか。そう思うと己の身がぶるりと震えた。 「クダリさん、通信です」 浴室と脱衣所を繋ぐ薄いすりガラスの扉越しに声をかける。 「んー、仕方ないからナマエ出てくれない?」 「わかりました」 鞄の中から音の根源を取り出す。 そこに映し出されたのは彼の相棒であるノボリさんだった。 “これはクダリのライブキャスターのはず、何故あなたさまが…” こればかりは何とも答えられない。 困ったように笑って見せればノボリさんもどこか困った表情を浮かべた。 “今は詳しいことをお聞きしません。それどころではないのです、クダリを出してくださいまし” どこか焦ったように言うノボリさん。 「少し待ってください」 クダリさん、 なあに? ノボリさんがクダリさんとお話したいそうです。 わかったー、ライブキャスター貸してー はいどうぞ。 ん。 少し開いた扉の隙間にライブキャスターを突っ込む。濡れたクダリさんの手が触れてライブキャスターは受け取られた。 そのまま、 感電してしまえばいいのに。 浴室の中からはクダリさんの楽しそうな声と機械越しに伝えられてくるノボリさんの声が反響して聞こえた。 ← |