* 儚く消えるは

ぼんやりとする意識の中。
ゆるゆると目蓋を開ければ、ここが薄暗い部屋であるとともに自分の部屋ではないことが理解できた。

ここはどこだろう。

ベッドに寝かされていた体を起こして、起きたばかりで働いてくれない思考回路を無理矢理働かせる。


「ああ、そうか」


私はクダリさんに首を絞められて気絶したんだ。



「起きた?」

「クダリさん…」


あの首を絞められた時がフラッシュバックされる。
絞められてる時はそんなに恐くなかったんだけどな。
だけど今は目の前の彼に対して恐怖を抱いている。その証拠に震えが止まらないんだよね。


「そんなに震えて…寒い?」


私の手に触れようとしてきたクダリさんの手を思わず払いのける。
するとクダリさんは酷く傷ついた顔していたけれど気にかけていられる余裕は私にはなかった。
恐い。また何かされるんじゃないだろうか。それだけが頭の中を支配した。


「来な、いで…」

「ナマエ?」

「やめて」

「ナマエ」

「なんでこんなこと」

「ナマエ、ぼくは」

「私を家に帰してよ」

「……あいつに会うため?」


ビシリと空気が凍てついた。
あいつ?あいつって誰のこと?

ジリジリと後ろへ下がって距離を取ろうとすれば、クダリさんは布団を剥ぎ取り足首を掴んだ。
私の体はビクリと大きく跳ね、ひっと息を吸い込み喉は引きつる。


「ダメ」


何が駄目だと言うんだ!
それより早く私を家に帰して!


「そっか、あいつと一緒にいたから…」

「な、何言ってるの?」


クダリさんは私の腕を強い力で掴み、歩き出したけど私はいきなりの展開と歩幅の違いで足がもつれ転んだ。
けれどそのままクダリさんは私を引きずり、バスルームへと放り込む。
なにがなんだかわからない状況のなか、キュッという音と共に上から冷たい水が降ってくる。

ああ、この人は私にシャワーで水をかけられているのか。


「きれいにしなくちゃ」


そう言ったかと思えば今度は頭を掴まれる。髪、と言った方が適切かもしれない。髪を引っ掴まれれば誰だってやっぱり痛いのだ。勿論私も例外なくあまりの痛さに顔を歪める。


ドボン。


次の瞬間には水の中。
私は浴槽に無理矢理頭を浸けられた。

首を絞められた時よりも強い苦しさの中、ギャンブラーな幼なじみの姿が浮かんでは消えた。




  





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