* いつも通りが崩れた日


いつも通りのメンバーで挑んだダブルトレイン。
いつも通りの20連勝。
そしていつも通りの21戦目。

「やっときた、ボク待ってた」

そう。
いつも通り、のはずだった…



なのにどうして?




「ねぇ、ナマエ!ボクと賭けない?」
「どうしたんですかクダリさん」

「いいからいいから!」

「…内容によります」

「今日バトルに勝った方の言うことを1つなんでも聞くの」

無邪気な笑みをにこにこと浮かべるクダリさん。私達を乗せて走るトレインが音を立てて走る。

「いいですよ。その賭け、ノります」

バトルで賭け。
賭けと言うと幼なじみを思い出す。
お互いに大きくなった今でもよくギャンブルでスったと我が家に転がり込む彼。
昨日の夜も私に泣きついてきたな、そんなに思いをするならしなければいいのに、等と彼のことを考えていたら口元が緩んでいた。

「ナマエ」

私の名前を呼ぶ声で“今”に意識を引き戻される。
目の前のクダリさんはいつも通り笑っていたけど、どこか恐ろしかった。「早く始めよう」

ボールを構えるクダリさんに私も慌ててボールに手を伸ばす。





「ま、負けた」

驚いた。
何に?
それはクダリさんはいつもの手持ちメンバーが違っていたからだ。
ここはノーマルトレインなのに、クダリさんはあろうことかスーパートレインの手持ちを使ってきたのだ。
この現場にノボリさんが居たなら、クダリさんを即座に叱りつけてくれていただろう。

「ぼくの勝ち」

にんまり顔で私の真ん前に立ちはだかるクダリさん。
でもいつもと何かが違う。
何だろうかと悶々と考えていたら首に圧迫感を感じた。
あれ?
なんで首?

「ナマエ苦しい?」

うん苦しいよクダリさん。

クダリさんの手袋に包まれた手は私の首にまわっていて、徐々に力が込められていく。

苦しい。苦しいよクダリさん。

酸素が足りなくなってきたみたい。
頭はクラクラするし目はチカチカする。
生理的な涙が流れる。涙で滲む視界の中で最後に視たのは、車内の光と白を身に纏った彼の偽りの笑顔だった。




 





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