* 子供っぽい人(ギーマ)

「悪い、今晩泊めて」

「また?もういい加減ギャンブルなんてやめなよ」

「いいか、俺はギャンブルが好きなんじゃない。勝負事で味わうスリルが好きなんだ」

「はいはい。もし私がいなくなったらどうするのさ、もう。」

「有り得ないな」


なにを根拠に。溜息が漏れる。
そう、ニヒルに笑うこの馬鹿は私の幼馴染だ。
これでこの地方の四天王をしているのだからこれまた驚き。勿論ジムリーダーでもすごい人気なのだから、当然四天王にはもっとすごい数のファンがついている。まあギーマも顔はいいし女の子には優しい。
でもそんなギーマのファンの子達がこいつの普段の姿を見たら幻滅するだろうなと思い、つい笑ってしまう。

ギーマは昔家を賭けたことがあった。あの時も何の根拠もない自信に満ち溢れていたようで、賭けた。そしてあっさりと負けたのだ。その日、泣きながら私の家に来て今晩泊めてくれと言った。
私は何がなんだかわからない状況のなか泊めてやった。
それ以来こいつは大負けした日は私の家に泊まりに来る。一つ屋根の下男女が一緒にいるのだから何かしらあるんじゃないかと期待をもった人には申し訳ないが、本当に何もない。
ただの幼馴染というだけの関係だと私は思っているし、むこうもそうだと思う。


「ほら、ご飯まだでしょ」

「ああ」


我が物顔で中へ入っていく後姿を見てふと気がつく。
あ、今日はマフラーまで摩ったな。


「今日はビーフシチューだったのか」

「うん、好きでしょ?」

「嫌いじゃない」


今夜作ったビーフシチューが鍋に入っていたのを目敏く見つけたギーマはちょっと嬉しそうだった。いつもは周りに対して大人らしく振る舞っているようだけれど、やっぱりギーマは子供っぽいところがある。明日は余ったビーフシチューを食べようと思っていたのだけど、仕方なく鍋を火にかけ温めてやる。
その間にギーマに先に風呂へ入ってくるように言いリビングから追い出す。
それにしても手のかかる幼なじみだ。
私は幼なじみであって母親じゃないんだよ、まったく。

ご飯はもう食べて切っていて残っていなかったで前に買ってきていたフランスパンを切っておいてやる。
それから箪笥からギーマの寝間着を出しタオルと一緒に脱衣所のところへ出して置いた。
リビングへ戻ると私のレパルダスがいつの間にかボールから出てきていて足元にすり寄ってきたので一撫でしてやり、鍋をかき混ぜる。
ふわりと香るビーフシチューの匂い。

そこでバタンと風呂の扉が閉まる音がした。ギーマが風呂から上がったようなので皿に料理を盛り付けていく。まあこれは温めただけなので料理といえのかは定かではないけれど。
テーブルに皿を持っていったりコップに水を入れたりしていると、首にタオルを巻き黒の寝間着を身に纏っているギーマの登場。グッド・タイミングってやつだね。


「いい匂いだな」


どことなく早足でギーマはビーフシチューが置いてあるテーブルの前に着席し、スプーン片手にそう言った。


「いただきます」

「どうぞ召し上がれ」


ギーマは美味しそうにビーフシチューを頬張り口元を緩めた。


「なーお」

「レパルダスはこっちにおいで」


ギーマの対面に座る私の横の椅子を引いてやるとそこに座り、頭を腕に押し付けてきた。
これは私のレパルダスがよくやる撫でてほしい時にするサイン。手持ち無沙汰だったので頭から背を撫でてやると気持ち良さそうに目を閉じた。

そういえばクダリさんに言われたことがあった。
「このレパルダスすっごくキミに懐いてる。大切に育ててるんだね、羨ましい」と。
その時に確か、この目の前でビーフシチューをたらふく食べている幼なじみの話しをした。
それで「幼なじみと一緒に初めてゲットしたお揃いのポケモンなんです」と答えた気がする。

レパルダスとはギーマの次に長い付き合いなのだ。


「御馳走様」

「お粗末様」


綺麗に食べてくれてこちらとしても嬉しい限りだけど、連絡もなしにいきなり来るのはいただけない。今日はまたまた食べ物があったからいいけど無い時だってあるんだ。


「そういえば、」


皿を台所へ持って行こうとしたらギーマが思い出したように声をあげた。


「今日もバトルサブウェイ行ってきたのか?」

「行ってきたよ」

「ナマエも好きだな」

「うん」

「………ナマエ、クダリって男のこと好きなわけ?」

「…は?」

私がクダリさんのことを…何だって?
吃驚して思わず皿落としそうになったよ。
というかギーマからクダリさんの話題を出すのは珍しい。
私がクダリさんの話しをすることはあったけど、何故そこに繋がる。


「す、好きだけど…今は憧れの方が強い、かな…」


いざ言葉にすると、しかも幼なじみを前にして言うと何だか気恥ずかしくなり俯いた。


その後少し間を開けてからギーマはそうか、とだけ言った。
それからギーマはクダリさんの話題を出すことはなかったけれど、私もあえてそれに触れることはしなかった。




 







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