* 馬鹿なひと

あの後私達はいつもの家に帰ったが、クダリさんは用事があると言って直ぐ戻ると言ってまた出掛けていった。

そして家に一人残された私はひっそりと泣いた。
クダリさんの前では弱さを見せたくなかったから、いなくなってから。

あの優しかった駅員さんをおもって。



クダリさんが出て行ってから数時間経ったであろう時間。
ドアを叩く音で私は飛び起きた。どうやら泣き疲れて寝てしまったみたいだった。
その間も鳴り止まないドアを叩く音に身構えつつも、ドアスコープを覗くとそこにはクダリさん。


「クダリさん…?」


ドア越しに話しかけてみる。


「両手塞がっててドア開けられない。ナマエ、開けて?」


何を持っているんだろうと疑問を持ったものの、まあ取り敢えず今は開けてやらないとと思いガチャリと音を立ててドアを開けてやる。


「ありがとう」


そう言ってにこにこと機嫌が良さそうに笑うクダリさんの手には朱にまみれたナニカが。

え?なにあれ。

私がじーっとそのナニカを見ているのを気がついたのかそれを自分の顔の真横に持ってきて、またクダリさんはにこっと笑った。
「気になる?」

「ええ」


私が頷いたのを満足げに見て今度は私の顔の真ん前に突き出す。
生臭いくらいの臭い。

…これってもしかして血の臭い?


「クダリさん…これって…」

「そうだよ」


そしてこの白い悪魔は平然と言ってのけたのだ。


首だよ、と。


私は玄関に崩れるようにして座り込んだ。
く、首…?

この人は本気でそう言っているのか。
からかっているんじゃないか。きっとそうだ。
だってそうじゃなかったら何で首なんか持っているんだ。
そうだよ、笑いながら真っ赤になっている首を持っているだなんて正気の沙汰じゃない。
きっとこれは作り物で私が恐がっているのを楽しんでいるんだ。

でもこの臭いは…。


「何考えてるの?」


不思議だというように首を傾げているクダリさん。


「これ、ぼくからのプレゼント。キミ好きだったでしょ?」


私は何がと尋ねようとした時気付いてしまった。
そう、気付いてしまったのだ。
この首が何なのか。





「ぎ、ギーマ?」



赤にまみれた白い肌。

眉、鼻、閉じられた瞳、長い睫毛。

そして血がこびり付いている髪。



「ギーマ、なの?」


その姿は無惨にも首しかない状態だったが、私の幼なじみのギーマに間違いなかった。


「喜んでもらえた?」


褒めてもらえるだろうと思っているのか目の前のこの男は嬉しそうに私に問いかけた。


「なんでこんなこと…」


もう耐えられなかった。

さっきも泣いたというのに涙がボロボロと流れ落ちる。

なんでこんなことに、もう嫌だ。
ギーマが何をしたって言うんだ。
私自身はどうなったってよかった。
でもギーマは関係ないじゃないか。



ギーマを返してよ。


わんわんと声を出して大泣きする私に対して、クダリさんはおろおろとしていた。


なんで泣いてるの?
どこか痛いの?


痛いのか、だって?痛いに決まってるでしょ。

私の精神状態が目に見えるならばもうずたずたに切り裂かれて血がたくさん出ていることだろう。
そりゃあもう出血多量の瀕死状態だよ。


「クダリ、答えて!!」


あなたは何がしたいのか答えて。
私は怒鳴った。
怒鳴るのなんていつ振りだろうか。


「ナマエがほしいから」




唖然とした。


「この男はナマエの幼なじみだからって…。
ぼくの方がナマエのこと好きなのに。
だからあの日サブウェイに来てくれたキミを連れてきた。
一緒にいたらぼくのこといっぱい知ってもらえる。
そしたらきっとぼくのこと好きになってくれるって思った。
でもナマエはあの男のこと考えてた。
だからプレゼントしようと思ったんだ。」




「馬鹿だね」



嘲笑。

本当に馬鹿な男だ。



私はクダリさんが好きだったのにね。



こんなことしなければ私はあなたを愛していたさ。




ね。ギーマ。


心の中で血にまみれもう動くことのない幼なじみに話しかければ、いつものあの不敵な笑みを浮かべてくれたような気がした。







Frenzy
end









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