Unfinished

「…あたし、北海道行くから」

「何しに」

「住みに」

「何日」

「無期限」

「何時から」

「明後日」

「……ふぅん」

………。

会話が、止まってしまった。

まあ、何時ものことなのだけれど。

とか言いつつ携帯をカチカチと操作する。…送信、っと。

…あ、珈琲冷めちゃってる。まあいいや。

少しだけ飲んだ珈琲をまた元の位置に戻す。

隣ではパラパラと本をめくる音だけがする。《壊滅的思考論理更生文》って一体其れは何の本。

「…何で、北海道に住むの」

「家庭の事情」

「嘘でしょ」

「うん嘘」

第一家庭ってあたしだけだもんね。市場って言うよね普通。…間違えた私情。

しじょうってかそれだといちばっぽかった。…平仮名ばっかだった。

「…で、本当は?」

「企業秘密」

「どこの企業」

「嘘」

わたくし山田花子はこの事情を隠し通さねばならないのです。山田花子って誰。

ああ、あれか。花子さんか。トイレさんか。

ってそんなことはどうでもいいのだ。

「何で教えてくれないの」

「守秘義務」

「難しい単語わかんなーい」

「言う程の事ではない。…と思う」

うん、きっと。

ていうか、ただ単に遺産探しとか…無理。言えない恥ずかしい。

ああ、遺産探しっていうのはつまり、あたしの両親はあたしが確か六歳?くらいの時に死んでいて、二人がいたのが北海道だったというわけだ。

そんでもって今あたしがいるのは横浜なのだ。親戚がここにいた。遠過ぎる。

まあそんな親戚にお世話になる生活だって高校に入ると同時にやめたわけだけど。怖いくらい貯金はあったし。

そして、悲しいことにあたしには両親の形見とか何とかそういうのが一切ない。火葬と一緒に葬ったらしい。あたしを忘れてるよねそれ。写真すらないなんて新手のいじめだからね。

なーんて、そんなことを愚痴っていても仕方がないのだ。

あたしがしたいのは、両親が住んでいた家にでも行ってなんかないかと探してやろうぜって話だ。

なんかとある日小耳に挟んだのだけれどね、両親の家はそのまま取ってあるらしい。

だから違う人が住んでましたって落ちになる心配はなし。

住所もこっそり調べた。準備万端。住居も確保した。

という事で明後日辺り行こう、と思ったわけですよ。

ま、まあ、ちょーっと報告を忘れてたんだけどね。

「そしたら俺はどうすればいいわけ」

「んー、別にここ住んでていいよ?用事が終わり次第帰ってくる」

「…そう」

あ、そうそう、隣にいるこいつは神城 槙(かみしろ まき)。そんであたしが佐野 愛衣(さの あい)。

関係は…、うーん、まあ、何だろうね。

「というわけで、買い物行きますかー」

「今から行くの」

「え、ダメ?」

「ダメ。だってもう暗い」

「えー、あたしそんな乙女じゃないー。夜目は利くから大丈夫」

「それでも危ない。俺が行く」

「そー?じゃ頼んだ。はいこれ買いに行く物ね」

「りょーかい」

荷物は纏めたし、チケット取ったし…、多分もうこれで完了かね。

あー眠い。夜ご飯食べてないんだけどなー。えーっと今…、十二時半?

いい加減食べないと…ってそうだ、買いに行ってもらってるんだった。シャワー浴びてこよ。うん決定。

* * *

「買って来た」

「おお、おかえりー。ありがと」

「…シャワー浴びたの」

「うん」

がさがさと袋から取り出す。あれ何お菓子とか買っちゃってんの。

まあもう今更気にしないけれど。今更過ぎて言う気にもらなないわけだけど。

「作っとくからシャワー行っといて」

「ん」

えーっと、んじゃ、簡単にカレーで良いや。

確かこの辺にルーがあったはず。…発見。

さてと。作りましょうか。

* * *

「いただきまーす」

…うーん、総じて普通。不味くないだけ良いのだけれど。良いのだけれど、ね。

「そういえば、大学どうすんの」

「え?大学?んー、もう退学届出しといた」

「仕事が早いね」

「まーね」

「なのにどうして俺にはギリで教えるわけ」

「忘れてた」

其処は本当に悪かったと思うけど。でもさ、

「ずっと一緒にいると後で言おうとか思っちゃうんだよ」

「あっそ」

む、心なしか槙が不機嫌になった気がする。

「今度からは一番に教えるから」

「絶対だから」

「うん」

迷いなく頷けば、少し口角が上がった気がした。美少年とかお得すぎて羨ましい。

「愛衣はもっと料理に工夫をしようとは思わないの」

「思わないの」

「……」

そんな心底飽きれたような目で見ないでよー。愛衣ちゃん恥ずかしいー。

まあ確かに何のひねりもないからこんな普通な味になるんだろうけどね。

「…っていうか、槙がめちゃくちゃ上手いんだからあたしは普通なくらいでいいんだよ」

「確かにな」

そこで納得しちゃうところも素敵です(棒)。

まあ上手いのは事実なんだけど。調理実習の時に女子やら男子やらが槙の周り取り囲んでてす凄いことになってたんだけど。先生までキラキラした目で見てるのを発見した時はさすがに引いた。おい先生。

そしてその作ったものはあたしがもらってしまった。いや、家でもらって良かった。学校でもらいでもしてたら次の日から学校行けない。不登校発動だわ。

「ご馳走様」

「相変わらずお早いことで」

「お前が遅すぎんの」

「そんなものなのか」

まあどっちだってたいしたことはないけれど。

* * *

時は過ぎるものなわけでとかカッコつけてみるわけだけどやっぱりあたしには似合わなかった。時が過ぎないのはホラーだね。時の魔法!みたいな。

まあそんなわけで現在位置は空港。何空港とか言わないよだってなんか引っかかりそうじゃないか。この一文余計だったね。

さて、と。

時間を携帯で確認して、いざ出発。

* * *

「…寒」

そうだったね、今は冬だったね忘れてたよ。

いや忘れてたわけではないんだけどね?北海道の冬ってやつを嘗めてたわ。凄いね雪。吹雪が凄いよ。ぶほおおって感じだよ。

んーとまあ、取り敢えず。

家に行きますか。

* * *

そこについてみれば何というか、普通の家だった。

今まで住んでた場所と比べれば少し小さいけれど、一人で住む分には対して問題ないだろう。

荷物をどさりと適当に置いて、中から財布とかそういうのだけ出してミニバックに突っ込む。

…さて、両親の家か。

ちょっと緊張する、けど…、少し、わくわくする。

だってほら、顔とかわかるかもしれないでしょう?なんて。

そんなことを考えていたりするのだ。

「…っと。着いた」

へえ、ここが。

そこにあったのは、一軒家で。

モダンな感じでモノクロで、何ともおしゃれな家だった。え、ここ住みたい。って昔住んでたんだっけか。

「鍵は…」

あった。良かった、これで無かったら笑ものだ。

…どうやって鍵を入手したのかとかそういうのは秘密だ。生憎普通の大学生じゃない。あ、元、か。

お、開いた。

「お邪魔しまーす…? 」

あたしの家なのだからお邪魔するというのは少々可笑しな表現だろうか。

まあ兎にも角にも捜索するか…。


……だなんてそんな、気楽に考えてたあたしがバカだったとか、今更言ってもきっと、遅いのだ。

家の中が×××××だったなんて、思いもしなかったのだから。

* * *

「…帰ろうかな」

もう嫌だわ本当。

えー皆様、今のこの家の状況をお伝えしたいなーとか思っておりますええ。

なんかさっきカッコよく言ってたけどね。けどね。

家の中が血まみれみたいなそういうパターンではないのよ。だったらちょっと怖いけど。というか作者はそれを最初考えてたらしいとかそういう裏話もあったりなかったりなわけだけど。

家の中が最早ゴミ屋敷だった。

や、別にね、カップラーメンのが以下略みたいなのじゃないんだけど。

生活感ありすぎてビビった。

あれ、火葬と一緒に燃やして灰になったんじゃなかったっけ。

玄関とか靴脱ぎ散らかしてあったよ。多分あれお母さんだわ。お母さん大雑把。それに比べてお父さんの靴は揃ってたんだけども。おい。

そして玄関のすぐ近くにあった階段には洗濯物が乾かしてあった。誰かこっそり住んだりしてんじゃないの。

まあそんな感じで生活感溢れまくりでなんか帰りたくなるのもわからなくはないでしょう、多分。

でもまあ取り敢えず!行くしか!ない?

…気を取り直して。

「お、っととと。もう何この家」

ちゃんと綺麗にしといてよねー。

やっとの事でドアの前に立つ。愛衣ちゃん頑張ったー。

ガチャリ。ドアを開けてみる。目を瞑りながら。

「…う、ん?」

綺麗だった。綺麗だった。

もう一度言う。綺麗だったのだ。

正常が異常に見えた私は確実にさっきの数分でいろいろと可笑しな事になった。うん。

だからこそ見えたんだろうとかそんな感じなのだが。

…ガラス張りの机の上に、真っ白な手紙があった。ただし、少し黄ばんでいる。

え、え。えぇ。

何かこれはあたしに向けての手紙だったりするパターンですかね。デスヨネー。

そぉ、っと手紙を手にとってみる。何も書かれていなかった。裏側も同じ。

糊付けはされていなくて。

「あ、開けてみよう、かな」

自分しか周りにはいないのに、何と無くそう呟いた。

当然返事が返って来るわけもなく。返って来たら怖いけれど。

かさ、と小さく音を立てて手紙が手のひらに落ちた。

その紙は少し黄ばんでいて。多分結構経ってるんだろうなっていう。そんな黄ばみ。

そーっと、本当にそっと、手紙を開ければ。

《ありがとう》

…と、その一言だけが書かれていた。

……これ、ってさ。あたしに向けて?なのか?

上からもう一度文を追って行くと…、あ。

愛衣へ。と、小さく書き込まれていた。

何のありがとう、なのか、とか。

もっと書く言葉はなかったのか、とか。

ぐるぐる、わけのわからないことばかりで頭が回る。

「…あれ」

まだ、入っていたらしい。

少しだけ封筒から覗くそれは。

「写真、」

が、入っていた。

両側に、あたしの両親だと思われる人と、真ん中に、あたし。

《五歳の誕生日を祝って。佐野 愛衣 茉夜 昌十》

写真の裏にはそんな文字。

…ああ、やっぱり、覚えてない、なあ。

何が《愛衣》だ。愛の欠片も両親に、なんて。

…両親が死んだのは確か、殺されたんだったっけ。

まさに昼ドラ的展開だったという。

父が無駄にモテていて、母に嫉妬した誰かが、とかそういう、展開。

きっと、それくらい母はわかっていてこの手紙を書いたのではと思う。

聞いた時は正直笑いしかこみ上げてこなかった。だって、笑うしかないじゃないか。

親戚は、写真なんて一度も撮っていないと言ったけれど。

あるんじゃないか。こんなに、三人とも笑っている。

それを知ったところで、今更何も変わりはしないけれど。

……でも、そうだ。独りだ、とかそういうのが、すごく良く、わかった気がする。

「帰ろ、かな」

嗚呼、もう。

目元に何か熱いものがせり上がってくるのがわかる。わかってしまう。

泣くな。泣くな。

泣いたら本当に消えてしまいそうじゃないか。

思い出すらないのに、事実すら消えてしまいそうじゃないか。

「…槙、」

今更助けを求めるなんて、滑稽じゃないか。

「…寂しい、とか」

こんなんだから、いつまでだって成長しないのだ。

「思ったこと、無かったんだけどなあ…」

こんな自分が、心底嫌いだ、とか。

悲劇のヒロインなんてごめんだ、とか。

だけど助けて、とか、矛盾しまくりなのは知っていて。

自分なんてどうでもいいだとか、綺麗なことを言える人間じゃなくて。

仕方ないとかって言っちゃうのも自己中だなあとか。

そんなのが、疲れた、とか。

自分が何を言ってるのかすらあやふやで。曖昧で。

だけど。ねえ。

誰かに会いたいって思うのはダメなのでしょうか。


「…見つけた」


声が、聞こえた。

それは求めてやまない人物の声で。

こんな展開とか本当に私は王道ばっかり、とか。

実はもう逝っちゃってて幻聴でも聞こえてるのか、とか。

「いきなり北海道とか言うから焦ったじゃん」

幻聴でさらに幻覚も見えるのかなとか。

「聞いてる?」

なんかすごい近いとか。

…え、近……?

「ふにゅ?!」

「聞こえてんなら返事しよーね」

わかったからほっぺた引っ張らないでください助けて。

「はなひへ(放して)」

「何て言ってんのー?」

「はなへ(放せ)」

「きーこーえーなうわっ!?」

ちゃんと喋れないのわかっていながらニヤニヤと見てくるもんだからイラついた。ので、手をぐいっと回した。どうだ。

「痛い痛い痛い!ごめんってば!」

パッと手を放せば、自分の手をさする槙。赤くなっちゃったねー。

「何しに来たの」

「愛衣が呼んだから」

「…聞いてたの」

「さあ」

そしてまた彼はニヤリと笑う。魔王様だ。

「彼氏には頼るものなんですよ愛衣ちゃん」

「……え、彼氏?どこにいんの。まさかあんた薔薇「何でそうなってんの」

愛衣の彼氏は俺しかいないでしょ、とか言ってきた。

…付き合って、たのか。

「槙ってあたしのこと好きだったわけ」

「言ってなかったっけ」

「きーてない」

「ふぅん」

「…で、どうなのよ」

「愛衣が俺のこと好きって言ってくれたら言ってあげる」

「…っ、す、き」

「俺も」

((物語なんて、きっと終わった者勝ちなのです))

Unfinished end.

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