「好きです、結婚しましょう!」
「また・・・・・・そういうこと言ってる暇があるなら勉強しなさい、勉強!」
「そういう瀬戸(せと)さんこそ、高校の時とか勉強してなさそう!!!!!」
「うん・・・まあ、そんなにはしてなかったかな?」
「大人な対応どうもありがとうございます。そんなとことより、ね、結婚しましょう!」
「久慈(くじ)ちゃん16歳になったの?そんなことばっか言ってるから中学生にしか見えないんだけど」
「失敬な!わたし今高校2年生です!17歳です!結婚できます!さあ、しましょう!幸せな家庭を作りましょう!」
「もう高校2年生かあ・・・はやいねえ。こないだまで中学生だったのにって感じがする」
「24歳のイケメンがあ!!おっさんみたいなこと言うでない!!!」
「うーん、あ、17歳と24歳っていくつ離れてると思う?」
「な、7歳くらいですかね・・・?ははは」
「僕が年齢差でここまでだったら大丈夫っていうのは?」
「5歳差までです・・・」
「うん、正解。ということは無理だってこと」
「き、きっぱり!!!!!!」
中学2年生の時に東京の都会からこのドがたくさんつくド田舎に引っ越してから毎日のように「美容院cube」に通いつめているのに、瀬戸さんはいつ来ても冷たい。
逆に優しそうな店長と仲良くなり続けるいっぽうで、もう店長の奥さんにしたプロポーズとかへそくりの居場所とかまで知っている。
それなのに、瀬戸さんのことは、まだ24歳の独身だと言うことしか知らない。
「くううううううう、瀬戸さん意地悪言わないでください!!また来ます!!!!!」
そんなに嫌なら、もう来るなって言ってよ。
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まさかこんなことになるとは思わなかったよわたしは!!!!!!
翌日、また美容院に行こうとした途中に20代前半の綺麗なお姉さんに「ちょっといい?」なんて声をかけられた。あああ逃げればよかった。完全怪しかったのに何故逃げなかったし!!!!!
「あなたが秋(あき)くんにつきまとってる女子高生?」
「な、秋くんとは誰でしょう・・・・・・?」
「はあ?美容院cubeの瀬戸秋くんよ!違うの!?」
「あ、瀬戸さんですか!好きですけど、つきまとってませんよ」
「嘘らっしゃい!何がつきまとってませんよ!!!わたし見たんだから!!毎日毎日美容院に通いつめてるじゃない!!見え見えの嘘吐くなクソガキがああ!!女子高生が大人に恋するなんて馬鹿じゃないの!!叶わないわよ!!」
バシンッなんて気持ちのいい音で彼女の鞄で顔面を殴られた。別に泣きたいとかじゃないけど、ムカムカする。なにそれ、女子高生のわたしは瀬戸さんに恋しちゃ駄目なの?知らんがな、そんなの。瀬戸さんが好きなんだから「好き」って言ってんじゃ、ぼけ。
叶わないとかそんなのでどうでもいいよ。そんなの最初っから知ってるから。
「でもムカつくんじゃあああ、ぼけええええええええ!!!!!」
今度はわたしがズドンッとお姉さんを投げてやりました。やり返したぞ!怒られるぞ!
女子高生の力を舐めてもらっちゃ困るね!!!生憎わたしはそんなひ弱じゃないんでね!!!今でも中学2年生の弟投げ飛ばせるくらいの力あるからね!!!!
「いったいわね!!!何すんのよ!!!服が汚れたじゃない!!!」
うわああああああああああお姉さんかなり強い。投げ飛ばして失神しないとか・・・・・・どうしよう。どうしよう。
「お主なかなかやりよるな・・・いざ、勝負!!!」
「勝負なんかしないわよ!!もう秋くんに言いつけてやるからな!!!!」
スタコラサッサ、逃げ足がはやいお姉さんは「美容院cube」にかけていく。
えっ、それはまずい。
わたし全力疾走してもお姉さんに勝てないから!だって足遅いんだって!どうしよう!おっかける!?むりぽ!!!
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やはりお姉さんには勝てませんでした。
だってすこぶるお姉さん足早かったんだよ!ちょっとヒールとは思えなかった!スニーカーかと思いました。
「久慈ちゃん・・・なんてことしてるの」
「ごめんなさい」
「本当いきなり投げ飛ばしてきたんですよ!もう本当怖かったです!」
「斉野(さいの)さん本当すいません・・・・・・」
「別に、秋くんが謝ることじゃないわよ・・・。ただ、あなたにつきまとってる女子高生が怖い子よってことを伝えに来ただけだから」
否定できない。実際投げちゃったし。
でももうちょっとオブラートに包んでくれてもいいじゃないか。でも悔しいけど正論だから言い返せない。ちくしょう。
「久慈ちゃん、斉野さんはねこの店の常連さんなんだ。見たことある?」
「ない」
「・・・・・・そっか」
いつも瀬戸さんしか見てませんから!!わたし!!!!
「あなたどこまでも失礼な人ね!」
だって見たことないんだって!!常連さんなんてしらなかったんだって!!!
「ごめんなさい」
「なにそれ、とりあえず誤っときゃいいと思ってるでしょ?」
「本当すいません、久慈ちゃんはいい子なんですけど。今日に限ってちょっと機嫌が悪くて・・・」
「わたしを投げ飛ばしたのに、いい子なわけないわよ!」
その通り。わたし瀬戸さんが言ういい子じゃないよ。
「機嫌が悪いだけなので、大丈夫ですよいい子です」
「ふん、なにそれ、あなた秋くんに庇ってもらってさぞいい気分でしょうね!この悪ガキ!帰る!」
おう帰れ!もうくんな!!!!!
「本当すいませんでした。次の来店時は半額にさせて頂きます」
「いいわよ!さようなら!」
お店のドアをバタン、と閉めて帰っていったお姉さんに瀬戸さんはまだ深々と頭を下げている。本当お姉さんの言う通り瀬戸さんは悪くないのに。
「久慈ちゃん、何でそんなことしたかは聞かないけど、もうそんなことしちゃ駄目だよ?」
「・・・・・・・・・」
「久慈ちゃん」
瀬戸さんは本当に優しいね。わたしなんか庇わなくていいのに。
「瀬戸さん、わたし知りませんでした」
「うん?何を?」
「瀬戸さんの下の名前、秋って言うんですね」
「え?言ってなかった?ごめんごめん」
今気づいたみたいな顔するけど、本当は最初っから名前なんて教える気なかったくせに。
「言うつもりなかったでしょ」
「うん、まあ・・・なかったかな」
「なんで、わたしのこと庇ったんですか?」
「うーん、なんでかなあ・・・」
「いつまでとぼけてるんですか、わたし知ってますから」
「何を?」
瀬戸さんは、なんにも教えてくれないね。でも知ってるよ。
「瀬戸さんの彼女さん」
「・・・・・・」
「彼女の春はわたしの姉だから」
「そっかあ・・・久慈ちゃんは妹なのか、やられたなあ」
「ずっと春しか見てなかったでしょ?死んでも忘れられなかったでしょ?だから春とわたしを重ねてたでしょ?」
「そっかあ、知ってるのか」
「店長が言ってたんです。瀬戸さんが前にそう言ってたって」
「店長にはかなわないよ。でも妹だなんてびっくりだなあ」
「春の隣の部屋に居たんだから、会ったことはなくても知ってたくせに」
「それもバレちゃったのかあ・・・、うん、すごいバイオレンスな妹が居ることは知ってたよ。でも会ったことなかったからさ。君がこの美容室に来た時はびっくりしたよ。春とそっくりなんだもん」
「わたしもびっくりしました。写真でしか見たことなかったから、どんな人かと思ってたら、すごくいい人だったから」
足りないの。
わたしには春と瀬戸さんが恋をした時間には勝てないの。
わたしが瀬戸さんに恋をしても、瀬戸さんにとったら春に変換されちゃうんでしょ。わたしも春と同い年で生まれたかったなあ。
そしたら、こんな年の差なんてないのに。
「春も、瀬戸さんの下の名前は教えてくれなかったんです。でもあのお姉さんに名前聞いてわかりました。春と秋なんてお似合いすぎて引きますもん」
春と秋。
似ている。うらやましい。何度思ったことか。季節の名前のカップルだなんて、兄弟みたいじゃないか。それくらいお似合いなんだ。
「そっかあ、引くのかあ・・・・・・」
そんな嬉しそうな顔で笑わないで。わたしじゃどうしようもできないんだ。
わたしには時間が足りなかった。瀬戸さんにもっと春よりはやく会いたかった。もっともっとはやく会えていたら、ちゃんとした恋ができるのに。
「瀬戸さん、わたし春じゃないよ」
「知ってるよ。久慈ちゃんは久慈ちゃんだよ」
春は名前で読んでも、わたしは苗字なんだね。・・・なんて絶対言えないけど。
「それだったら、春も入ってるじゃないですか」
「うーん、そうだねえ」
名前すら読んでもらえないの。春じゃないから。
瀬戸さんがいるってわかってやっと美容院に来れた時にはもう中学生だった。7歳差のあるわたしと春。なんでかなあ、わたしは春になれないんだろう。
春が無くなって4年後にやっと見つけた美容院だったから瀬戸さんはもう春のこと忘れてるかな、なんて最低な願い。
「瀬戸さん、最後にお願い聞いてください」
「・・・・・・最後?」
「うん、もうここに来ませんから。瀬戸さんに迷惑かけませんから。お願いします」
「別に迷惑かけられた覚えはないよ」
「・・・ううん、ありがとうございます。最後のお願い聞いてくれますか?」
「わかった」
もうこれで最後だから。
「名前・・・・・・呼んでください」
「・・・・・・ごめんね蓮華(れんげ)ちゃん」
「えへへ・・・ありがとうございます。謝らないでくださいよ」
「うん、うん、ごめんね俺のせいで・・・君ともっとはやく会えたらよかったな」
「春に怒られるよ」
「そうだね・・・。でも君がいるだけで嫌な思い出もかなり吹き飛んだよ」
恋した相手は、姉の彼氏でした。
蓮華:秋に種蒔きし、春に咲くことが多い。
花言葉は「心が和らぐ」など。
(蓮華って名前ずっと嫌いだったんです)
(えー、いい名前なのにな。俺は好きだよ?)
(だって、瀬戸さんと春の子供みたいじゃないですか。秋から春に咲く花の名前だなんて)
(ふふ、不思議だね)
(・・・でも、もう好きですよ。(君が呼んでくれたからなんてね・・・言えないよ)蓮華って)
。End。