―――ペロリ…


アイスバーを舐める舌が止まった。

空耳が聞こえた気がした。

「…え???」

8月の公園。
燦々と降り注ぐ太陽の陽から私たちを守るように青々とした葉の茂る木の下。
少し古びたベンチに座った私の隣に座る親友、藤崎(フジサキ)ナナの横顔を反射的に見つめた。

今の、空耳だ、よね???

空耳であってほしい。
なんて…そんな私の願いはすぐに打ち砕かれた。


「…ごめん、灯里(アカリ)。ナナね、転校しなきゃいけないの…。本っ当に、ごめんっ!!!!」


隣のナナは私に体ごと向けて、パチンッと顔の前で両手を合わせた。



……意味、わかんない。

私とナナが離れ離れになる?
生まれたときからずっと隣だった私たちが、離れなきゃいけないの???


偶然生まれた日が一緒で、偶然家が隣で、偶然気が合って…
たくさんの偶然が私たちを今の私たちの仲までつれてってくれたのに、

中学にあがって、やっと学校になれた頃なのに、

なんで、突然そんなこというの???
なんで、ナナが居ない生活を送らなきゃいけないの???

そんなの、想像できない。
ナナの居ない日を過ごす私なんて、全く、想像できないよ。


ポタリ、手に水滴がたれた。
それが、アイスが溶けたものなのか、自分の目から流れたものなのかも分からない。

やばい。頭が動かない。
体が、動いてくれないよ。

本当は、「そっか」って言って、「元気でね!!!向こうでがんばるんだよ??」って言わなきゃいけないことくらい分かってた。
でも、それが…できない。


目の前のナナは、手を合わせたままチラリと私の顔を盗み見てくる。



可笑しいよ。

だって、ずっと一緒だって、言ったじゃんか。

ずっとずっと、お隣さんで居ようって、
ずっとずっと、親友で居ようって、


「約束したじゃんか!!!」

「灯里!!!!!」


私は、ナナがとめたのも無視して、アイスバーを握りながら公園を飛び出した。



公園を飛び出し家に帰った私は、まだ両親が帰宅していないことを良いことに、リビングのソファーうずくまった。
そして、お気に入りのクマさんの耳と顔の付いた四角いクッションに自分の顔をうずめた。

「ナナの馬鹿っ。
なんで居なくなっちゃうの?!
あの日約束したじゃん!!!!!!
しかも、よりによって、なんで約束したあの公園で言うの!?
訳わかんないよ!!!!!!!!」

大きな声で叫べば、少しだけ心が軽くなった気がした。


でも、本当は知ってた。

本当は、一番馬鹿なのは私だってことを。
ナナが転校してしまうのは、ナナのお父さんの仕事だから仕方ないということを。
今までは、ナナのお父さんが単身赴任で別の場所に行っていたらしいけど、今回はそうは行かないんだということを。
ナナは何も行っていなかったけど、きっとあの瞬間の私には全てが頭の中で整理できちゃったんだ。
でも、それを信じたくなくて頭の中を真っ白にした。


だから、すぐに今度は罪悪感が私の心を真っ黒にうめた。




気がついたときは朝だった。

うっわ、私寝ちゃったんだ…


そして、体が温かいことに気がつき上体を起こす。
お母さん、毛布かけてくれたのかな???

私の背中から足にかけて、何故か私のお気に入りの毛布がかかっていて、すぐ目の前の小さなガラスのテーブルには見慣れた丸い字がびっしりと書き込まれたメモが置いてあった。

“灯里へ。ただいま。お母さんが帰ってきたのは11時過ぎになってしまいました。ごめんね。
今日、麻奈(ナナのお母さんのこと)から引越しのことを聞いたの。灯里も今日、ナナから聞いたのかな??
ビックリしちゃったわよね。ナナが、灯里を傷つけちゃってごめんなさい。って謝りにきたわ。
勿論、大丈夫と言っておいたけど、灯里。大丈夫???辛かったらお母さんに言って。明日はお母さん、家にいるからね。
だけどね、灯里。いくら灯里が嫌だって叫んでも、泣いてもね、ナナと麻奈と健一(ナナのお父さんのこと)が引っ越すことに変わりはないの。
それは、もう決まっちゃったことなのよ。ナナだって、辛いはずよ。お母さんが保障する。灯里も辛いけど、ナナも麻奈も健一も、勿論お母さんも、辛いのは一緒だわ。
だから、最後の日は、ちゃんと笑顔で送ってあげなさい。もし、ナナと麻奈と健一に何か渡したいものがあるなら、明日、買いに行きましょう。
お母さんより。”


ツーーーーっと、頬に温かいものが伝った。

ああ、私泣いてるんだ。
そう頭が認識して、必死に涙をぬぐう。

泣くな。本当に泣きたいのはナナの方なんだから。

そう、自分に言い聞かせてゴシゴシと涙をぬぐって、二階に駆け上がる。


そして、まだ眠っているであろうお母さんの部屋に飛び込んだ。


「お母さっ、起きてたの?!」

「灯里、おはよう。ついさっき起きたのよ。」


嘘だ。直感がそう言った。

寝起きのはずのお母さんの髪は綺麗に整っていて、化粧だって薄いけど塗ってある。
お肌に気を使うはずのお母さんが化粧をしたまま寝るなんてありえないから、きっとかなり早くに起きて化粧をしたんだと思う。

服はパジャマだけど、袖と胸元が少しだけ濡れてる。
顔、その格好で洗ったんでしょ。


けど、そこはあえて突っ込まずに

「ナナと麻奈ちゃんと健一くんに渡したいものがあるの。買い物、付き合ってくれない???」

「ふふっ、ええ、付き合うわ。」

クローゼットに走った。


丸襟の薄い青のブラウスを引っ張り出して、紺の二段のフリフリ付きのスカートをはく。
そして、サスペンダーも引っ張り出して、黒地に白の横線が2本入ったニーハイをはいた。

それから、クローゼットの扉の内側についている鏡の前で髪の毛をとかして、緩くツインに分ける。
お気に入りのクマちゃんの髪ゴムを二つにつけて、茶色いポシェットの中身をつめてから肩にかけた。
最後に全身を鏡で確認して…よし、変なところはないね。


チラリと時計を見てビックリ。うわ、新記録!!!5分かかってないじゃん。
我ながらタイムに軽く拍手して

「お母さんっ、できた!!!!!」

自分の部屋を飛び出した。


お母さんとの久々の買い物は、ちょっとだけおしゃれして出かける。


うっわ、さっきから可愛いものばっかり!!!

街を歩くだけで、色々な可愛いものがズラーーーーっと並んていて、さっきから目があっちへ行ったりこっちへ行ったり。

あ、あれかわい……って、違う違う。
今日はナナの分を買うんだから、自分のを買うのはまた今度。


「ねえ、お母さん。」

「ん??」

「あの店、入って良い??」

「いいわよ〜。」

お母さんの腕を引っ張って、店に次々と入っていく。


けど、何か違う…。
ナナに上げたいものが見つからなくて、さっきから歩き回ってる。


ナナには、アクセサリーをあげたいんだよね。
前、アクセサリーがほしいって言ってたから。
でも、あんまり高いのはお小遣い的に変えないから、ある程度安いものを探してる。
それでいて、ナナに似合いそうなもの。

それが、さっきから見つからない。


「ね〜、お母さん〜。」

「ん〜???」

「なんか良いお店知らない〜??」

「う〜ん……ナナに似合うものがあるかは分からないけど、可愛いお店なら…確かこの近くにあるはずよ。」

「えっ、本当!?ね、それどこ!?」

もー、知ってるなら早く言ってほしかったな〜〜。

そんな私の心の声が分かったのか

「灯里が自分で探さないと意味がないでしょ???可愛いお店、この近くにあるから、自分で探してみなさい。」

うえええっ?!嘘でしょお!?ココまで行っておいて、なんでつれてってくれないのさぁ!!!
ただ、お母さんの言い分が最もだから、しぶしぶ頷いた。


あたりをキョロキョロと見渡して、地図を見つける。おっ、ラッキーなんて思いながら地図に近づく。

えっと、ココが現在地ね。
ってことは……えっ、この地図逆さま!?


だけど、まさかの逆さまになった地図。

意味わかんないんだけど〜っ!!!こっちは急いでるっつうのに!!!!


下にあるタッチパネルで、ファッション関係のお店に絞り込んで…この近くってお母さん言ってるから、きっと1キロ圏内。
1キロ圏内のファッション系のお店って、10件??意外とある…。
あ、でも、ナナに合うものがあるかは分からないって言ってたから、子供用のお店じゃないでしょ。
子供というワードを検索から除外して…今まで行ったことのあるお店は除外した。
おっ、3件。

よし、全部虱潰しに当たるか。


今日は運が良いのか悪いのか…1件目がビンゴだった。

キラキラと飾り付けられた店内が窓の外から見える。
明るいけど、ゴージャス過ぎる感じもなく、きっとこれなら私一人でも入っていけるな、と思った。

白いドアを開けて、店内に入ると、店員さんらしき若い女性の「いらっしゃいませ〜」という、綺麗な声が私を迎えてくれた。


「お客様、何をお探しでしょうか???」

「あ、えっと、友達にアクセサリーをあげたくて…」

「それなら、……このネックレスがお勧めですよ〜〜。安くて可愛いと女子中高生の間で人気の商品なんです。」

そう言って店員さんが取ってきたのは、細いチェーンに羽の付いた鍵のようなチャームとハートを掲げた天使の付いたネックレス。

「うわあっ、可愛い〜〜〜っ!!!!」

それに、ナナが付けたら似合いそう!!!

「そうですよね〜、私もこのネックレス好きなんですよ〜。あ、ほら、私が今つけてるブレスレット。これも、このシリーズなんです。」

へえー。
店員さんの腕に付いたブレスレットと、その手のひらにおいてあるネックレス。

どっちも捨てがたい!!!!
ナナ、美人だから両方似合うって。絶対。
でも、お値段を見ると、さすがに二つは買えない。さて、どっちにしようか。

あ、でもナナ、こっちは似たの持ってたかも……

んーー、どっちにしようか。
顎に手を当てて真剣に店員さんの腕と手のひらを見つめる。


――――

「ありがとうございました〜〜。」

素敵なお店を出る。

「灯里、素敵なものが買えたわね。」

「うんっ!!!お母さんのおかげだよ。ありがとう!!!!」

「何言ってるの。これは灯里の力よ。お母さんは何もしてないわ。」

「でも、コレを買えたのは、お母さんのおかげだもん!!!」

「ふふっ、ありがとね。」

お母さんの手のひらが頭にのって、ふんわりと、お母さんの良い香りがした。

そして、私の胸に抱えている、ナナに渡す物。
私は、絶対その包みをおらないように、両手に抱えて家に持ち帰った。


別れの日。絶対、泣かないよ。だって、一生会えなくなるわけじゃないし、泣いたらナナが困るから。
ナナに馬鹿って言っちゃったこと、謝らないといけないな……。
ああ、でも、本当はその日が、来てほしくない。


けど、時は確実に進む。止まるなんてありえない。
心の時間が止まるとか、よく言う人が居る。それは否定しないけど、心の時計を留めても世界の時間は進む。

来てほしくない日がこないなんてことは、ありえない。


その日、我が家は朝から慌しかった。ナナと麻奈ちゃんと健一くんが朝の10時に新幹線に乗るから、その時間に合わせるため、私は6時に起きた。
新幹線の乗り場はココからかなり離れていて、車で1時間くらいかかる場所だから、最悪でも8時40分には車で出発しないといけない。

朝ごはんの後、洗面所で顔を洗って髪の毛をとかして、ちょっとだけネイルをして、クローゼットに走る。
今日は、赤い無地のタンクトップに肩だしの白に英語がたくさん書かれた半そでティーシャツを着る。そして、茶色い南瓜パンツをはいた。
髪の毛は前髪を上げて、捻ってピンでとめた。ちなみに、ピンはピンクのハートの付いたもの。

ナナに渡す物と、必要なものを詰め込んだ黒いポシェットを手にして、再びリビングに舞い戻る。
「お母さん、お父さん!!私、もう行けるよ!!!」
そういうと、もう準備万端みたいなお父さんが出てきて、「おう。じゃあ、あとは日登美(ヒトミはお母さん)待ちだな。」そう呟いて「日登美〜、急げ〜〜。」そう言った。
ああ、お母さんは色々と準備しなきゃいけないことがあるもんね。「ちょっ、後もうちょっとだから、待って〜〜」お母さんの慌てた声が返ってくる。
それから、10分ちょっとでお母さんの準備が終わって、家を3人で出た。
ナナと麻奈ちゃんと健一くんは、色々な家に回ってあいさつをしなきゃいけないらしく、1時間くらい前に家を出て行った。

お母さんの趣味の赤い小さな車の後部座席に乗り込む。そして、ポシェットを肩にかけ直し、ナナに渡すものをしっかりと抱え込んだ。

車の中。色々と考え事をした。まず、新幹線の駅に着いたら、車を降りて、改札に行くでしょ。そこに居るって聞いたから、まず謝らないと。で、ありがとうって言って、これからもずっと友達だよって言って…これを渡す。
たくさんのナナとの思い出が頭の中を走り去る。

生まれたときからずっと、一緒だった。
保育園にあがるとき。保育園が一緒じゃないって聞いて、二人で大泣きしたんだよね。それで、お母さんと麻奈ちゃんたち困らせて、最終的に一緒の保育園に通った。
保育園の栄太君のこと、覚えてるかな???悪戯好きで、いっつも私泣いちゃって、ナナが助けに来てくれたよね。で、栄太君返り討ちにして、栄太君が泣いちゃって、いっつもナナが怒られてた。
あれ、私すっごく辛かったんだ。でも、先生達に違うって言えなかった。先生達が怖かったんだと思うな。ごめんね。
小学校に上がって、私運動会が大嫌いで、もう毎年大泣きして、3年くらいのときナナが運動会の日の朝、家の前に居てビックリしたんだよ。
それから毎年、さすがに高学年のときは泣かなかったけど、嫌で仕方なかった運動会だけど、その日の朝だけは私の楽しみになってた。
恋する乙女みたいだって、ナナ言うかもしれないけど、本当だよ。ナナが来てから、嫌だったけど最終的に行くようになったんだから。遅刻もなくね。
夏休みの宿題。自由研究が終わらないとき、二人で麻奈ちゃんに山につれてってもらって、色々な自然に触れたよね。
山でナナがカブトムシ見つけて、それを手で掴んだとき、私まだ掴めなくて、悔しくてミミズ掴んでナナに自慢しようと思ってナナのところに行ったら、ナナ、逃げながら大泣きしたっけ。
あれは、ビックリだったな。ナナ、ミミズ苦手なんだってそのとき初めて知ったよ。あ、ちなみに青虫とかも苦手だって言ってたね。
今度、ミミズと青虫を虫かごに入れてナナの家まで行ってみようかな。…やめよう。ナナの拳骨降ってきそう。
小学校の卒業式。ナナと私、離れ離れになるわけでもないのに、大泣きしたね。ああ、もしかしたらナナ。あのときから今日のこと、分かってたのかな???
卒業式始まる前に大泣きして、目が赤く腫れたから、栄太君がからかってきたよね。あのときのナナの行動にはビックリしたな。突然「今までありがとう。大好き。」なんていうんだもん。
あそこで告白とか、ビックリしたよ。まあ、ナナらしくて良かったけどね。ただ、栄太君とは学校離れちゃったし、栄太君、隣のクラスの美歩ちゃんって子が隙だったみたいで、フられちゃったよね。
それと卒業式が重なって、式の途中、ナナの鼻すする音、私の耳に凄く入ってきて、不謹慎だけど笑いそうになったんだ。ごめん。
なのに、中学校の入学式。ナナ、すごい笑顔で、「好きな子できちゃった!!!」なんて言うもんだから、私一瞬意識飛びそうになったんだから。責任とってほしいよ。本当。
あ、ナナの制服姿、似合ってたよ。ナナが「灯里、制服めっちゃ似合う!!!!」って言ってくれた時、本当に嬉しかった。あの日の写真、今の私の机の上にある写真たてに飾ってあるんだよ。
それに、その写真たてもナナが誕生日プレゼントでくれたんだよね。
クマのシリーズも毎年、ナナが一個ずつくれたものだから、すっごく大切にしてます。私のウサギちゃんのおそろいのもの、大切にしてくれてるかな???大切にしてくれてたら嬉しいな。

たくさんの思い出。
良い思い出ばっかりじゃない。喧嘩もした。
だけど、それも全部ひっくるめて今となっては良い思い出だよ。
本当にありがとう。


昨日の夜、夜遅くまでかけて書いた手紙にはそんなことを書いた。


何て、考えているといつの間にか駅についていた。
早っ。慌てて車から下りて両手に抱えていた袋を右手に持ち変える。
そして、駅の改札に、ゆっくりと向かった。
泣いちゃダメだからね。灯里。絶対に泣くな。


「っ、灯里!!!!」

「ナナあっ!!!!!!」

改札に入った瞬間、飛びついてきたナナに飛びつき返す。
お母さんと麻奈ちゃん。
お父さんと健一くん。
お互い、抱き合ったり、思い出話にふけってる。
これなら、私たちも大丈夫だ。ぎゅっと、ナナの背中に回した腕に力を込める。

「ナナっ、あのね、」

「うんっ、」

「酷いこと、言ってごめんね??」

「ううん、気にしてないよ。」

微笑んだナナにホッとして

「今までありがとう。」

そう呟く。

「こちらこそありがとう。灯里。ずっと、友達でいてね。」

「勿論!!!私にとってナナは親友だよっ!!」

「ナナも!!!」

それから、お互いおでこをコツンと合わせて、

「「これからも、ずっと親友だよ。ナナ(灯里)。」」

そう言った。


「ナナ。コレ、私からのプレゼント。受け取ってくれない??」

「ええっ、いいの!?ありがとう!!!!あ、これ、ナナから。受け取らなかったらぶっ飛ばす。」

ケラケラと笑いながらプレゼントを交換する。受け取らないとぶっ飛ばされちゃうからね。

「「あっ、」」

「え、何??ナナ先に言っていいよ。」

「あ、ううん。灯里先で良いよ。」

「じゃあ、一緒に言おうか。」

「わかった。せーのっ、」

「「それ、今見ないでね。」」

それから、二人、再びあははっ、と笑う。


「ナナ〜〜、そろそろ時間だから行くわよ〜〜!!!」

「あ、うん〜!!!今行く〜!!!!」

「ナナ。」

「何、灯里。」

「元気でね。」

「そっちこそ。元気じゃなかったら承知しないから!!」

「あ、そうだ。」

スッと、ナナの耳元に口を寄せて小さく呟く。

「ん??―――っ…、ふふっ、そうね。約束するわ。」

「よしっ、じゃあ、またね!!!」

「うんっ、また!!!!」


…ナナの背中が視界から消えたとき、

「っ、ナ、ナァっ…、ヒックッ、」

さっきまでせき止めていたはずの涙が、ダムの壁を崩壊するような勢いであふれ出した。

新幹線が走り去る。
その新幹線の中、ナナもまた、私と同じように泣いていたそうだ。

泣きながら、車に乗り込む。


「ねえ、灯里。ナナから貰ったもの、開けたら??」

お母さんの言葉に頷いて、涙を拭いながら紙袋に入ったナナからのプレゼントをあける。

「……えっ???」

箱の中にあったのは、見慣れた四角い箱。まさかと思って箱を開ける。
「う、そ…」
その中には、私が買ったネックレスと色違いのネックレス。そのネックレスを取り出して、両手で握り締める。やっぱり、同じ事考えたんだね。学校にもばれずにつけられるように。
そして、それを首につける。それから箱を閉めて紙袋に入れようとしたとき、カサリ、小さな音がして紙袋の中を慌てて見つめた。

「てが、み??」

慌てて手に取る。そして、封を切った。


“灯里へ。突然転校することになってゴメンね。
生まれてからずっと一緒だったナナたちが離れることなんて考えられないよね。でも、いつかこうなるんじゃないかって、なんとなく分かってた。
だって、高校に入ったら学校はなれちゃうでしょ???でも、家が離れるなんて考えたこともなかった。初めて聞いたとき、恥ずかしいけど大きい声で泣いたんだ。
灯里に聴かれてないか不安だったけど、次の日、家の前にいつもと変わらない灯里が居てホッとした。今に大切にしようって、本気で思った。
ありがとう。
運動会の日に大泣きする灯里を見て、おせっかいかなって思ったけど、朝、迎えに行ったら、灯里、最初ポカンとしてて思わず噴出しちゃったわ。
灯里から貰ったウサギ、大切にしてるからね。灯里もあのクマ、大切にしなかったらぶっ飛ばすから。まあ、灯里が大切にしてること、知ってるけどね。
卒業式の日、一緒に泣いてくれてありがとう。入学式の日、自分のことのように喜んでくれてありがとう。灯里と撮ったあのときの写真、灯里がくれた写真たてに今も大切にしまってます。
灯里は、ナナの灯なんだよ。どんなに辛くても、灯里がナナを照らしてくれるからがんばれた。灯里の笑顔が大好き。
これからもずっと灯里は、ナナの灯でいてください。そして、いつか、もう少し大きくなってお互いが会えるようになったら、またいつもの灯里の笑顔をナナに見せてね。
恥ずかしいけど、本気でナナは灯里にたくさん助けられたんだよ。
本当にありがとう。またね。ナナより。”


泣かないわけがなかった。

ナナがくれたネックレスも、ナナがくれた手紙も、私にとっての宝物。一生の、宝物。
その日の夜、私はナナから貰ったものの箱に、その二つをそっとしまった。


―――2年後。

私の家の前に車が止まった。

「ナナあああっ!!!!」

「灯里!!!」

「元気だった!?」

「勿論よ。あ、灯里。その人が??」

「うんっ、彼氏!!!奏斗っていうの。奏斗。この子がナナ。」

「よろしく。灯里からよく聞いてる。素敵な子だって。」

「ふふっ、ありがとう。あ、こっちが…って、おい。蓮!!!」

「ああ゛〜???」

「勝手にほっつき歩かない!!!ていうか、灯里たちの前でドス利かせないで!!!恥!」

「なんだとっ?!」

「はぁ…ごめん。こいつが蓮。ナナの彼氏。うるさいけど根は良い奴だから。」

「はははっ、面白いね〜〜、ナナらしいけどね。」

「それ、褒められてる気しないわ〜〜。」

「え、だって褒めてないもん。」

「うっわ、天然毒舌め。」

「へ???何のこと???」

2年前と同じように時間が流れる。

あの日、私がナナの耳元で約束したこと。


“次はお互い彼氏連れて会おうね”

約束は、守られたよ。


私とナナの胸に、お揃いのネックレスが光った。

end.

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